「お、いたいた」

「よお、久しぶりだなぁ、鷲尾」

「なんだってまぁお前さんのやることはいつも突然なんだ」

「冬って言ったら北海道だろ」

「意味がわからん、とりあえず行くぞ」

「なまえちゃん、行くって」



なまえちゃんは、降り立った空港のロビーにあった巨大な水槽を熱心に眺めていた。1時間は見ていたと思う。最初は僕も一緒に眺めていたが、早々に飽きてしまった。どうしてウツボとかよくわからない毒持ちの魚とか、地味な魚ばっかりなんだろう。水も汚いし。
1週間前に突然「北海道行くぞ北海道」と言う赤木さんの提案で北海道に来ている。僕は本当についてきただけで、北海道で何をするのか、そもそも何か目的があって行くのかも知らなかった。案の定赤木さんは何も考えていなかったらしく、飛行機を降りて初めて鷲尾さんに連絡したのだ。たまたま鷲尾さんの予定が空いていたからよかったけど、ダメだったらどうする気だったんだろう。



「どうだなまえ、雪だぞ」

「まぶしい」



空港から一歩外に出ると、そこはあたり一面の雪だった。あぁ、本当に北海道に来たんだなぁ、と実感させる光景だ。こんなに日が照っているのに気温は氷点下だなんて信じられない。いや、体感的に信じざるを得ないんだけど。



「なまえ、滑るから気を付けろよ」

「そう言ってる大人の方が滑るもんさ」

「バカにするんじゃねぇって」

「本当さ、自分の運動神経を過信してるやつが一番危ないんだ」

「お、車来るぞ、気を付けっ…!」



鷲尾さんの言う通り、赤木さんは足を滑らせて見事な尻餅をついた。赤木さんの尻餅なんて東京にいたら絶対に見られない。当のなまえちゃんはと言えば、意外にも上手に歩いている。駐車場にある鷲尾さんの車に着くまで(尻餅こそつかなかったものの)僕も1回足を滑らせたが、なまえちゃんは無事にたどり着いた。
赤木さんが助手席、その後ろになまえちゃん、そして隣に僕が座る。鷲尾さんらしい大きな車だ。



「くらいね」

「外が眩しかったからね」



そう呟いたきりなまえちゃんは窓の外に夢中になってしまった。赤木さんと鷲尾さんはよくわからない話題で盛り上がっている。
赤木さんが北海道行きを提案した日から昨日まで天さんを探したのに、結局天さんは見つからなかった。お嫁さんたちにも、ちょっと家をあけると言って出て行ったきりだそうだ。一体どこにいるんだろう。天さんなら熊に襲われても死なないと思うから心配はいらないけど…。
窓越しの日差しが心地よくて、だんだん瞼が重くなってきた。そんな2月のある日の午後。


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