「お、もういい頃だろ、ほら、気を付けて持てよ」



今日は天さんの提案で焼き芋をしていた。空き地で落ち葉を集めて焼き芋だなんて、天さんらしい考えだ。落ち葉に火を着けてから今まで、なまえちゃんはずっと焚き火を見ていた。僕にはただの煙を吐き続ける燃焼反応にしか見えなかったけど、もしかしたらなまえちゃんの目には何かの魔法に見えたのかもしれない。

その姿を、焼き芋の世話をしながらずっと見ていた天さんは、なまえちゃんが芋の焼けるのを待っていたと思ったらしい。一番に焼けた芋を渡した。「熱いぞ」と言われて、袖の中に手を隠して受け取ったなまえちゃんは、すごく困った顔でこちらを見た。僕の隣に座っている赤木さんを見たんだと思う。



「どうしたの、なまえちゃん」

「あっつい」



これよりないほど困った顔をして、出てきた理由は「熱い」だ。たしかに熱いだろう。だけどもらったものを粗末にしちゃいけないと思って芋を抱き続けるなまえちゃんがあまりにもいじましくて、思わず赤木さんと顔を見合せて笑ってしまった。

僕や赤木さんに笑われたときに「なんで笑うのぉ」と泣きそうな声で言うのがまたおかしくて、笑いはさらに大きくなった。天さんも笑い出して、いよいよ本当に泣き出しそうになったら赤木さんの出番だ。



「わかったからこっち来い、ほれ」



こっち、と言うのは赤木さんの膝だ。なまえちゃんを膝に乗せて「熱い」焼き芋を受け取ってアルミホイルを剥いている頃にはもうさっきのことなんて忘れたような顔をしている。日常の世話は下手かもしれないが、これのタイミングが赤木さんは上手いのだ。



「ちゃんと様子見て食えよ、あっつい、からな」



クククと赤木さんが笑いを噛み殺して言う。なまえちゃんは赤木さんの手に握られた紅色と山吹色のコントラストをうっとりして見ていた。やっぱり、なまえちゃんと僕とじゃ見える世界が違うんだろうか。半分に折った片方を赤木さんがかじる。なまえちゃんはもう片方を赤木さんの手越しに持っているが、食べる気配がない。



「気を付けて食べれば大丈夫だよ」

「ひろくんは?」

「僕?」

「天さんも」

「みんなで2個ずつ食っても十分なだけあるから大丈夫だ」



天さんがさらに焼けた芋を焚き火から取り出して言った。それでもなまえちゃんは、まだもどかしそうな顔をしている。僕が焼き芋を受け取って、天さんも火の様子を見ながら食べはじめてやっと、なまえちゃんも手をつけだした。



「あ、みんなで食べたかったってこと?」



やっと笑顔になってなまえちゃんが頷いた。まだ熱いらしく、おっかなびっくりかじりついている。

なまえちゃんは感情表現に乏しいし、自分の気持ちを伝えるのも苦手だ。毎日ずいぶんもどかしい思いをしているだろう。だけど時折見せる笑顔はとても満足そうで、見ているこっちまで笑顔になるような力を持っている。もし「人生に満足しているか」と聞いたとしたら静かに頷くだろうし、それは本心だと思う。自分のできる範囲に満足して、おこる出来事に幸せを感じる。なまえちゃんの世界はなんて綺麗なんだろう。そんな世界ではきっと嘘をつく必要もない。赤木さんに一番近いのはなまえちゃんかもしれない。いつの間にか自分の手で芋を持っていたなまえちゃんを見ながら、僕は考えていた。


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