「よし、なまえ何食いたいんだ?」
「しろいごはんっ」
なまえちゃんが貝殻を選別し終わると12時半、ちょうど昼時だった。そこで、ちょうど目の前にあった寂れた喫茶店に入ることにした。ちなみに当然、手書きでコピーしただけのごくシンプルなメニュー表の中に白米なんてない。
「俺もなまえが食いたいなら白米食わしてやりたいがな、ないんだよ残念ながら」
「スパゲッティとかホットケーキとか、他にもいろいろあるのに」
「ごはんない?」
「お前の好きなオムライスあるぞ、これにしろ、な」
「する」
うん、まぁ、白くないけどご飯なんじゃないかな。結局、決めるのに一番時間がかかったのは赤木さんだ。たしかに、赤木さんがサンドイッチを食べてるのも想像できないし、食事をするのにここは不向きだったかもしれない。
「なまえね、しろいごはんすきなの」
「わかったわかった、晩飯は白いご飯食わせてやる」
遠慮してるとかじゃなくて、本当に白米が好きなだけらしい。なまえちゃんらしいと言えばそれまでだが…。っていうか、なまえちゃんがそんなに長い言葉をしゃべってるの初めて見た。それから特に会話もないまま注文したものが運ばれて来て、それぞれ食べはじめた。また無言だが、居心地は悪くない。
「なまえちゃん、おいしい?」
「おいしい」
「そりゃよかった、お前が全部食えるのは白飯とオムライスだけだもんな」
「たまごね、トマトとね」
「おー、そうかそうか」
会話は噛み合っていないが2人とも楽しそうだ。そう言えば前に赤木さんが「なまえには何食わせても半分しか食わない」って言ってた気がする。どうせ赤木さんのことだから、なまえちゃんの大きさも考えないで一人前与えてるんだと思う。
食べるのが特別早いってわけじゃないのに、オレと赤木さんが食べおわったころ、なまえちゃんはまだ3分の1以上残っていた。そこで見ていて気づいたけど、単に食べるのが遅いだけじゃなくて食べるのが下手なのだ。上の卵と中のご飯を一緒に掬うことはできないみたいだし、そのご飯も全然掬えていない。スプーンでこんなにこぼす人を僕は初めて見た。赤木さんは、手を出したくてうずうずしている感じだ。確かに、これじゃあ誰かが食べさせた方が絶対に効率がいい。
「ごちそうさまっ」
「お前はどうやったらこんな顔中汚せるんだ」
「あぐ…」
赤木さんがなまえちゃんの顔を拭く。そういうことか、さっき赤木さんがうずうずしたまま、結局手を出さなかった理由がわかった。赤木さんも大してそういう子供の扱いに慣れてるわけじゃないんだ。汚れてるのは、せいぜい口と顎と頬ぐらいなのに、おしぼりを広げて文字通り顔中拭いている。そんなんじゃ汚れが広がるだけじゃないか。なまえちゃんのおかげで赤木さんの意外な一面が見れて、なんだか赤木さんにちょっと親近感が沸いた。
神も人の子
(そんなに強く拭いたら取れますよ)
(取れたらくっつけりゃいいだろ)
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