「よおなまえ、今日何の日か知ってるか?」

「まったく参っちゃうよね、全世界の男どもがなまえのチョコレートを楽しみに待ってるなんてさ」



そう言うなまえは、床に落ちている埃を見るような目付きで遠くを見ている。本当にそんな男がいるんなら俺はいますぐそいつを社会的に抹消しに行くんだが。



「ってわけでお兄ちゃま、どうぞ」

「さすがにバレンタインにゴミをもらうとは思わなかった」

「しっつれいしちゃう!食べ物だよ!…たぶん」



なまえが手渡した(たぶん)食べ物だと言われる無数の小さな塊たちは、ご丁寧に「指定ゴミ袋」と書かれた黄色い袋に入っていた。たしかカラスには黄色が見えないからゴミ袋は黄色がいいとかなんとか聞いたことが…なんて御託はどうでもいい。いやいや、常々反抗的だとは思っていたが思春期ってのは恐ろしいもんだ。



「豚は質より量だと思ってさ、探してみたらちょうどいい袋があったの。かわいいでしょ?黄色でさ」

「ああ、袋が与える見た目の効果ってのをひしひしと感じるチョイスだ」

「そんなに褒めないでよ」

「…ちなみに材料は?」

「ん?いろいろ試したからな…大丈夫、全部失敗したやつだから!遠慮しないでどうぞ?」



ここまで行くと清々しい。逆に愛情すら感じるのは気のせいだろうか。そもそもいつもは買ってきたやつをくれてたんだが、どうして急に手作りなんて始めたんだ。なまえの性格からしてこう言うのは成功するまでやるはずだから、どこかに一応食べ物と呼べるレベルにまで達したものがあるはず。
そう思って見ると、なまえは後ろ手に紙袋を持っていた。チョコレートを入れるのにちょうどいい大きさだろう。そうか、これは一旦落としてから持ち上げると言う作成なんだな。



「でもさ、なまえの手作りもらえただけでもありがたく思わなきゃ」

「ゴミ袋入りでもらったのなんてきっと世界で俺だけだもんな」

「そうそう、本命だって世界に1つしかないんだから」



そう呟いて、頬を染めるなまえはなんだかそわそわしている。ついにいよいよ、その本命を俺に渡すときが来たんだな。



「だけど俺たちは兄妹なんだ…期待には答えられねぇよ」

「ってわけで、カイジくんとこ行ってくるね!」

「いやいや、何か忘れてんじゃね?」

「あ、カチューシャ忘れてた」

「チョコ、忘れてるだろ!?」

「大丈夫、ちゃんと持ってる」



どや顔で俺を見るなまえの目には、いつものような憎悪はなかった。腐っても女の子、バレンタインと言う年に1度の愛の行事に興奮は隠しきれないらしい。俺にチョコレートを渡すのを忘れてカイジだなんて、相当焦ってるんだな。



「だから俺に…」

「え?あげたじゃん」



なまえの目に憎悪が戻りつつある。ああ、ありがとうな、と言ってその場を立ち去るしか俺に残された道はないのだった。


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