ネタは思いついたし起承転結の転までは思いついた。でも結がどうにも思いつかなくて、書いては消してを繰り返すばかりだった。史実に基づいてるって言ったって楽じゃない。また1行書いてみたところで、ドアが開いた。なんだよ。コーヒーはさっき持ってきたし、灰皿だってまだ溢れると言うほどじゃない。気が散るから入ってくるなと言ったはずだ。イライラした俺はドアの方を睨むように見た。
「おー、今の状況が手に取るようにわかりますなぁ」
「なんだ、なまえか」
「表で黒服に止められたけどー、そんなに考えてばっかだと脳みそ縮むよ?」
「悪いけどいくらなまえだってな、これには口出しさせないぞ」
「まぁまぁそんなこと言わないでさ、なまえ、差し入れ作ってきたんだ」
「差し入れ?」
珍しいこともあったもんだ。思う念力岩をも通す?点滴石を穿つ?いや、何か違うな。なまえが俺の右手に箸を握らせて、その後で差し入れってやつを出してきた。しまった。久しぶりすぎて忘れてたけど、なまえがこうやって自分からやってくるのは、何かろくでもないことを考えているときだ。差し入れなんてベタな嫌がらせじゃないか。それに気づかないなんてやっぱり俺の脳みそは縮んでるのかもしれない。
「さ、遠慮しないでたくさんおあがり」
「これを食べ物と言うのかお前の家では」
「なまえのお部屋ね、このお部屋の隣にあるんだ」
いや、マジで何だよコレ。卵焼きに何したらこうなるんだよ。形がおかしいのはまぁいいとして、問題は色だ。つーか卵としておかしい匂いがする。匂いっつーか臭い。
「食べないの?」
「逆に聞くけどこれ食うの?」
「せっかくお兄ちゃまのために作ったのに」
「せめて見た目がまともなやつ作ってくれよ…」
「いっつもあんなに好き好き言うのにさ、嘘だったんだ」
「いや、それは嘘じゃねーって!」
「じゃあ食べれないわけないよね?あ、なんならあーんってしてあげようか?」
ああ、これで目の前にあるのが奇妙な卵焼きじゃなかったらどんなに幸せだろう。俺は本当にこれを食わなきゃいけないんだろうか。俺そんなキャラだったっけ?違うと思うんだけど。卵焼きを見つめながら涙を滲ませる姿を見たら、なぜかこっちが悪いことしてるような気にさせられるのはなぜだろう。
DEATHとLOVE
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