「ああよかった、お父様お部屋にいたんだ」



お父様のところに行けばいいって言ったって、家にいなかったら意味がなかった。その点でなまえはラッキー、さすがお父様の血を引くだけのことはある。こういうここぞってときは、神頼みなんかしなくてもラッキーが向こうからやってきてくれるんだから。



「なんだ、なまえ」

「んー、そのうちわかるから、まぁ何かやってたなら続けて続けて」



相変わらずお父様はなまえに興味があるんだかないんだかよくわからない目で見たあと、これも相変わらずなまえなんか気にせずにやっていたことを続ける。服も靴も髪も全部お父様が選ぶのに、そもそもなまえを飼うと決めたのもお父様なのに、普段はたいして興味もないらしい。ペットはペットらしく、いつもかわいくて、求められたときだけしっぽを振って愛想を振りまけばいいんだ。まぁ、特にそれで不自由したことはないし、大体なにやっても怒られないんだからなまえはまったくかまわない。



「まぁせっかくじゃ、ここへ来なさい」

「もちろん!」



ここって言うのは、お父様の膝のこと。骨張ったジジイの膝の上に座るのはちょっと…けっこう不快だけど、それがなまえのお仕事なんだからしょうがない。なまえだって好きなことばっかして生きられるわけじゃない。

机の上には、金属の絡み合ったものが何個か置かれていた。いわゆる知恵の輪ってやつ。ボケ防止にぴったりだよと笑いたいのは山々だけど、そこはぐっとこらえなきゃ。そうそう、お父様には少しでも長生きしてもらわなきゃ。なまえが15歳になって、カイジくんと結婚するまでね。



「なまえもやってみるか」

「うん、一番難しいやつね」

「そうだ、それでこそだ」



カカカカと笑って、一番端の金属の塊をなまえに渡した。たぶん、やはりそう来たかって意味で笑ったんだと思う。たしかにそれは難しそうだったけど、こう言うのは発想の転換が大事なんだから、お父様にできてなまえにできないわけがない。それにそろそろ黒服が来るころ。

やっぱりなまえの思った通りで、30秒ぐらいしてたぶん解き方がわかったし、黒服が青い顔をしてやってきた。



「和尊様、失礼ですがなまえ様を」

「やだよーだ!」

「なんじゃなんじゃ、騒がしい」

「その、なまえ様が厨房の鍵を持っていまして…」



よっし、作戦通り!次はお父様がなまえに理由を聞くはず、ここまできたらこっちのもん!あとは慎重に顔の筋肉を動かすだけ。



「なぜなまえが厨房の鍵を持っておる」

「それが…」

「黒服がキッチンに入れてくれないからね、なまえがポケットからとったの」



ここは、いたずらっぽい顔で、頭上のお父様の顔をあおぎ見る。そうそう、なまえはただキッチンに入れてほしかっただけですよー、年頃の女の子が、お料理に興味を示しただけですよーって言う風にね(これは事実なんだけど)



「なまえがお料理したいって言ったんだけどね」

「問題ないじゃろう、入れてやりなさい」

「ですが数年前のあの事件をお忘れですか」

「そんな昔のことなどとうに忘れたわ。構わん構わん、好きにさせろ」



よっしゃあ!たしかにキッチンが使用不能ななろうがお父様には知ったこっちゃないんだから、面倒なことに巻き込むなってこと。たぶん演技だってこともお見通しなんだろうけど、今となっちゃなまえにはそんなことどうでもいい。とにかくキッチンを使う権利を手に入れたんだから、こんなとこにいつまでもいる必要はないんだ。












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