なまえがものすごくわくわくした顔で、目の前に置かれた皿を見ている。結局目玉焼きは半熟どころか軽く焦げた上に、うまくフライパンから剥がれなかったからぐちゃぐちゃだし、焼きそばも冷めかけていた。それに最後に焼いた「サプライズ」だが、これが一番よくない。俺の予想に反した方向にできあがった。
「ぐちゃぐちゃだね、カイジくん!」
「見た目は悪くても味…の保証もない…けど…」
「いただきまーす!」
割りばしを持ったなまえが、早速それに目をつけた。
「ねぇ、この八つ裂きのウインナーなぁに?」
「タコだよ、タコ」
「タコ?」
「真っ赤なウインナーって言ったらな、タコさんウインナーって日本じゃ決まってんだよ!」
「タコってこんなに八つ裂きだったかな…」
そう、俺は中途半端に残しても、と思って焼きそばに入れた残りのウインナーも目玉焼きと一緒に焼いたのだ。しかも、わざわざタコさんにしてやろうと下半分に切れ目を入れて。切れ目が多すぎたのか場所が悪かったのかしらないが、そのウインナーたちはタコと言うよりは、ただの謎の切れ目の入ったウインナーになってしまった。なにが悪かったんだ…。今度調べておこう。
「で、どうだ?味は」
「あんね、このウインナーまずいよ」
「…左様でございますか」
「でもおいしい!」
「なんだそれ」
「きっと家で食べたらおいしくないんだけど、カイジくんと食べたらおいしいんだ」
俺が食べてもたいしておいしくないと思う合成着色料たっぷりのウインナーが口に合うわけないのに。なんの裏もなさそうな顔して笑っちゃって。これが計算なのか本音なのか、残念ながら今の俺にはわからない。計算だとしたら末恐ろしい女だな…。次に手を付けたのは半熟だったはずの目玉焼きだ。
「カイジくんちではこれを半熟っていうの?」
「いや、言わねぇけどそれなまえのせいだからな」
「えっ、なまえその時邪魔してないじゃん」
「邪魔はしてないけどなまえのせいなんだなこれが」
「なにそれー…うわもっそもそ」
「完全に火通った黄身って喉につまるよな」
もっそもそと言いながらも嬉しそうに食ってんじゃねーか。
「もっそもそでおいしくないんだけどね、おいしよ!」
「だからなんだそれ…まぁ言いたいことはわからなくもないけど」
「おいしいとおいしくないが別っていうか…あ!楽しいだよ!」
「おいしくないけど楽しい?」
「それそれ!」
それからも結局なまえは、おいしくないおいしくないと連呼しながらも全部平らげ、その上俺の八つ裂きウインナーまで食べた。そんなことを連呼されても気分が悪くなるどころか、こっちまでなんか楽しくなってきたのは、なまえの表情のせいだと思う。俺はこの日初めて、食事はただ腹を満たすだけじゃないとわかった気がした。
Sense of Wonder
(今度来たときは何作ってくれるの?)
(やっぱりまた来る前提なんだな)
(もちろん!)
---------------- ついに母性に目覚めるカイジ← ちなみにウインナーが八つ裂きになるのはうちの母です。わたしはあの危ない味のする赤ウインナーが好き。
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