俺が手に持っていた卵と、なまえが手にしたウインナー、あとは目についた焼きそばをカゴに入れ、金を払って逃げるようにスーパーをあとにした。こいつはただの世間知らずとかじゃない。俺を馬鹿にしてるのか、もしくはこいつが馬鹿だ。レジでもいちいち大騒ぎするもんだから、レジ打ちのおばちゃんに微笑ましい目で見られてしまった。いや、どこが微笑ましいんだよ。どう見ても馬鹿だろ。



「あー楽しかったー!」

「俺は疲れた…」

「あのゴロゴロするやつはさ、乗れるうちに知りたかったよ」

「お前をあそこに乗せられたらどんなに楽だったか」



なまえの手を離すとどんな迷惑をしでかすかわかったもんじゃないと身を持って体験して、今度は俺がなまえの手を握っている。注意力が散漫ってレベルじゃない。お願いだからもっと周りを見てくれ。さっきから10回は言ったが一向に通じないみたいだから俺は諦めた。なまえに理解させるよりは、俺が注意したほうが現実的だろう。



「カイジくん、楽しいねー」

「そんなに楽しいか?このクソ暑い中…」

「こんなクソ暑い中、ふたりで手繋いでお買い物行くのなんて初めてだもん」

「そういやなまえ、普段何してんだ?」

「家でピアノ弾いたり黒服と鬼ごっこしたり…」

「金なら腐るほど持ってるんだからわざわざ家にいる必要ないだろ」

「黒服とお買い物して何が楽しいのさ」

「ほら、あの兄貴とか」

「あの兄貴にはもう期待しないことにしてるの」



そんなの関係ないでしょ、とでも言うように、急に手を引っ張って俺の一歩前に出た。まぁ俺としては黒服と鬼ごっこの方が気になるわけだが。同じような顔をして見分けもつかないあいつらが、何人も混じって追いかけあうなんて考えただけで笑えるじゃないか。



「あぁ、強いて言えばなまえの友達はおじさんばっかだよね」

「おじさん?」

「うん、出世のためならなんでもやるおじさんたち」



家族のこととか、自分の境遇を話すときのなまえの目はいつもと違ってやけに現実を見たような目になるのに気づいた。どっちが本当のなまえなんだろう。



「でも全然寂しくなんかないよ」

「ん?」

「友達できたもん」



ね、と俺に向かって投げ掛けられた笑顔にはどんな意味が含まれているのだろうか。いつの間にか、なまえの中では友達ってことになってるらしい。友達っつーか保護者に近いと思うんだけどな。俺だって友達は多い方じゃないし、むしろつるんだりするのは嫌いだ。だけど、この世間知らずにいろいろ教えてやるのも悪くないかもしれない。



「まぁ、友達ぐらいなら…」

「ごめん、なまえ間違えたよね、恋人だった」

「まだそれ言ってんのか」

「ていうかさ、手繋いでお買い物行って、ご飯作るんだからこれはもう友達じゃないよね」

「お前の思考回路って本当にぶっ飛んでるんだな…」



もう呆れたとか通り越して心配だ。俺はこいつの頭が心配でならない。そう思う俺はやっぱり友達とか恋人とかじゃなくて保護者なんだな、と思った。












I CAN SEE CLEARLY NOW

(なまえはカイジくん大好きだよ!)

(そりゃどうも…)


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