「いいから付いてこないでね」
「ですがなまえ様…」
「大丈夫だってば!カイジくんがいるんだから!」
「そうは言いましても…」
「じゃあ、いい子で待ってるんだよ!」
俺は外に出てめちゃくちゃ驚いた。ドアを開けると、そこに黒服が立っていたのだ。思わず声が出そうになった。そういえばさっき、護衛をつけてきたって言ってたな…。よく見ればアパートの前には不釣り合いなほど立派な車が止まっている。やりがいのありそうなベンツだ。
「この辺ってさ、貧相な住宅街ってやつ?」
「…閑静な?」
「それそれ!」
「っていうかそんなにくっついたら歩きにくいって」
いつの間にか、俺の右手はなまえの左手に握られていた。女の子の手って本当に小さくて柔らかいんだな。いや、そうじゃなくて。盲導犬でもそこまでくっつかないぞってぐらいくっついて歩くのだ。歩きにくくてたまらない。
「だってこんな狭いとこ、車が通ったら危ないでしょ?」
「変なとこ庶民的なんだな」
「ねぇねぇカイジくん」
「なんだよ」
「暑い」
「だから離れろって」
非常に不毛な会話をしてる気がする。日本語が通じないとかじゃなくて、会話に使う回路が違うみたいだ。だいたい、日の一番高いこの時間に買い物に行くってのが間違いなんだ。
「普通の人って人んちの庭で遊ぶもんなの?」
「は?」
「あれあれ」
と言ってなまえが指差すのは住宅街によくある、小さな公園だ。幼稚園から小学生ぐらいの子供たちが数人いる。
「いや、あれ公園だぞ」
「えっ!公園ってあんなに小さくないよ」
「こんなとこにそんなでけぇの作ってどうする」
「へー、てっきり誰かの庭かと…」
「自分んちが広いって言っても、友達んちとか行かないのか?」
「行かないし、行ったとしてもこんなとこに住んでないと思うよ」
考えてみたらそうだよな…。ていうかやっぱりこいつ友達いないよな。なんとなく、なまえが同年代のやつと遊んでるって言うのは想像できない。全ての価値観が常軌を逸してるのだ。許可がなければ出歩くこともできない。そう思うと、親が強すぎるってのも逆にかわいそうかもしれない。
それからも不毛な会話を10分ほど続けると、スーパーに着いた。
FIRST QUESTION AWARD
(うわっ涼しい!)
(生き返るぜ…)
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