私は今、兵藤邸へ向かっている。非常に不愉快である。誰が好き好んであのような気味の悪い屋敷に行くだろうか。私がその兵藤邸へ向かっている理由は、昨日かかってきた一本の電話のせいだった。
「もしもし、あ、ねぇ、利根川?明日お休みって聞いたんだけどさ、なまえと遊ばないかと思って。本当?ちょうど暇だった?よかったぁ!じゃ、明日なまえのおうちに来てね!」
明日が休みで、普段誰からも電話が来ないような時間に呼び出し音が鳴った時点で嫌な予感はしていた。それが当たっていただけのこと、あの方から連絡があった時点で何があろうとも私の運命は決まったのだ。兵藤邸が近づいてくると、いやな汗が出てきた。
「ああっ、利根川!いらっしゃい!なまえずっと待ってたんだから!」
「これはお嬢様、わざわざお出迎えとは大変恐縮…」
「ほら早くなまえのお部屋行こっ」
傍から見ると、有力者の子供に好かれた大変幸運な人間に見えるに違いない。だが決してそんなことはない。この方の目に留まらずひっそり生きていたらなんと平穏なことか。こんなにあどけない顔をしていてもかの兵藤和尊の血はしっかり流れているのだ。
「今度は一条と遊んであげるんだ」
「そりゃあ一条も光栄でしょう」
「けどね、やっぱり利根川の方が楽しいよ。普段偉そうな人のプライドを踏みにじるのが楽しいんだもん。一条じゃちょっと足りないなぁ」
こういうことをニコニコ笑いながら、実にさらりと言うのだ。地位が高ければより楽しい、ということらしい。興味対象が女遊びとちょっとした処刑に向いた坊っちゃんの方がまだ害がないと言えるかもしれない。
お嬢様の自室は年頃の娘らしく綺麗にまとめられており、調度品からは気品が漂っている。兎のぬいぐるみが置いてあるようなこの部屋で、これから屈辱の戦いが始まるのだ。いったい今日はどのような仕打ちのプランがお嬢様の頭の中にあるのだろうか。
悪魔の招待状
(ん?そんな楽しそうな顔しちゃってやだなぁ、いい年て)
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