演劇部と映画同好会の合同制作は、映画部部長の熱烈な勧誘によって決定された。
堀ちゃん先輩は全く乗り気ではなかったけど、同じ物を作る者として、学園の王子鹿島遊(つまり私)を画にしたいという向こうの情熱に根負けしてしまったのだった。
私がやりやすいように、という事で全体の指揮もシナリオも演劇部におまかせさせてくれるらしい。
なんなら演劇部のドキュメンタリーでもいいですよという向こうの提案には、鹿島がチャラすぎて演劇部の気品が損なわれると先輩に速攻却下されてしまった。
今日は夕日をバックにしての撮影の為、海に赴いている。

「わーい海だー!」
『ちょっと鹿島くん! 焼けちゃうからパラソルから出ないで! 日焼け止め塗ってあげるからこっち来て!』

慌てて私を追う小さな彼女は、演劇部メイク担当のふぁすとちゃんだ。
そして多分、これは私の勘だけど彼女は。
私は振り返り、ふぁすとちゃんの頬を撫でた。
太陽に照らされて火照っている。

「君が塗ってくれるの? 緊張しちゃうな」
『はいはい分かった分かった。ついでにメイクもしちゃうから大人しくして。陽が暮れるまでまだ時間あるから、決して顔真っ赤にしないように』
「ふぁすとちゃんはツレないなぁ」

私の王子オーラも物ともせずにいる。
本人に効かなくてもいいのだ、彼女の場合は。
違う人が目的だから。

「鹿島ァァァァァァ!!」

ほら、来た。

「あ、部長ー」

「あ、部長ーじゃねぇよふぁみりに迷惑掛けんなコラァ!!」

先輩が蹴ろうとすると、ふぁすとちゃんが私の前に立ちそれを制した。
千代ちゃんよりほんの少し高いかくらいの身長なので、堀ちゃん先輩にもとても小さい存在だ。

『堀くんやめて。鹿島くん蹴っちゃだめ』
「だってこいつが」
『鹿島くんこんなんだけど女の子なんだよ。蹴るなら私を蹴りなよ』

そーだそーだと乗っかると、堀ちゃん先輩にすごい顔で睨まれた。
見かけに寄らずふぁすとちゃんは度胸がある子だ。
私がふぁすとちゃんに絡んでくると必ずと言って良いほど部長はやって来る。
ふぁみりふぁすとちゃんは。きっと。
堀ちゃん先輩の意中の人だ。

「・・・・・・おまえの事蹴るわけねぇだろ」
『あら、女の子扱いしてくれるんだ』
「小せぇから飛んでって海に流される」
『なにそれぇ!!』

プンプンと怒っているふぁすとちゃんをまっすぐ見ようとせず、先輩はそっぽを向いている。

私とお話してると嫉妬するなんて、先輩も可愛いところがある。
すっっっっっごく面白いからつい意地悪したくなっちゃうんだけど。
ふぁすとちゃんを腕の中に収め、睨む先輩ににっこりと笑う。

「海ですよ先輩。折角だし楽しみましょうよ」
『そうだよ堀くん。まだ時間あるし西瓜割りしよ。さっき映画同好会の人がラムネくれたよ。キンキンに冷えたやつ。ちょっとは頭冷やせ」
「最後の最後で痛烈だな」

私と先輩の頬に、冷えたラムネを当てにっこりと笑った。
冷たくて気持ち良いはずなのに、先輩の顔は火照ったように赤かった。



【土曜日はソーダ水のなか】

二人のこの顔を見るのが、私はとても好き。

『堀くん顔真っ赤! まさか熱中症じゃ!』
「違ぇよいいから仕事して来い。・・・・・・・鹿島ニヤニヤしてんじゃねぇ!!!!!」


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