私は普通のいわゆる一般的な女子校生である、可愛くもなければテストで平均点を取るくらいの頭脳、女子力が高くもなければ別段スカートを短くしすぎたりして目立っているわけでもない。そう、そんな感じの女子高生である。総北高校へ入学し友達に誘われて見学した自転車競技部のマネージャーになり、中学生の頃とは程遠いスポーツ部特有の熱気にまみれる学生生活をここ最近一年間過ごしてきた。同級生である寒崎をはじめとする、今泉、鳴子、小野田とはよく話す方だ。元はと言えば寒崎に誘われたのがそもそもの始まり、それが運命を変えた。中でも鳴子とはクラスが同じこともあり関わりが多い、まあ私は話したくなくてもあっちが話しかけてくるので仕方ないと思い相手をしてあげる。してあげるだけ、鳴子はすぐ調子にのるからね。それでも私は寒崎に比べたらロードバイクに対する知識は皆無だしましてや整備なんて出来たもんじゃない(一度やらせてくれた鳴子をキレさせたことがあるくらい)、選手たちの体調管理とかも一年やって未だにわかっていない。これは自転車競技部の死活問題ではないか、たまにそう思うことがある。出来ることと言えば後片付けと部室の掃除、あとは洗濯くらいなものだ。そんなことをしている間に新一年生が入部してきて私は一人だけ取り残されてしまったように感じていた、成長出来ていないのは私だけか。中でも異才を放っている一年生二人組は私から見てもキラキラ輝いていて、後輩ってこんな感じなのかあってまじまじと見つめてしまった。言い方は悪いが、才能があるってこういうことをいうのね。鏑木一差と段竹竜包、変な名前。特に段竹の方は聞いたことないよ、なんかこう、お相撲さんにいそうな名前だよね。そう段竹に呟けばまだ緊張しているのかカチコチになりながら「そうですか?初めてそんなこと言われました」苦笑い炸裂でなんとも申し訳ないことを言ってしまったなと反省。兎にも角にも、これからが楽しみな新一年生、私なんかに緊張しなくて大丈夫だから。部室の片隅で洗ったタオルや練習着を畳むのがいつもの日課、洗濯マネだなんて名称で呼ばれている私に気を使うなんてちゃんちゃらおかしいんじゃないの。

ファミリは寒崎が連れてきたロードバイクを何も知らないまっさらな奴だった、なんで自転車競技部のマネージャーになったのかよく分からない、今でもよく分からないでいる。それなりに部活で共に過ごしてきた仲だから言えるが、自分にはこの部活で存在意義があまりないと思っているように見える。確かにマネージャーらしい仕事をしているのかと聞かれれば首を傾げてしまうだろうが、ファミリが部活のために一生懸命かと聞かれれば誰でも首を縦に振るだろう。そのくらい一生懸命に働いてくれているのは部員全員が知っていることだ、だからもう少し自信をもってマネージャーの仕事に務めてほしい。「今泉、今日はやけに私のこと見てくるけど何?何か企んでるの?」やめてくれ、そんなんじゃない。たまにおかしな発言もするが、そんなに悪いやつじゃない。タオルの香りは決まって柔軟剤の香りがする、ふわふわのものを渡されて悪い気はしない。一年のファミリへの評判はそこそこ良い、何を言っても怒らなさそうがベストワンに入るらしい。こいつ割とすぐに怒るぞ、それは一年には教えるべきではないな。

僕はファミリさんの頑張っている姿を見るのが大好なんだ、最初はマネージャー?と思ってしまうほどに動きもぎこちなくて選手である僕と同じように初心者マネージャーだった彼女。初めの頃は部活内でも特に境遇が近い僕に相談してくることが多くてお互いに頑張ってきた感じがする、もちろん部員の人たちも一緒に頑張ってきたんだけれども。ファミリさんは自分のこと、知識もなければ経験もないからみんなの力になれているか心配だって言っていたっけ。あれ、多分だけど心配しすぎだと思うんだ。僕は力を貰ってるし、周りだって力を貰ってるはずだし。最近はめっきり相談してこなくなってしまったから少し淋しかったりするんだけど、彼女も慣れてきたってことでいいのかな。「小野田さんとファミリさんは、仲良いですよね」段竹くんが突然投げかけた言葉に眼鏡が吹っ飛びそうになる、仲は良いけどそういう仲ではないから!勘違いしないでほしい!慌てた僕を見て彼は変な意味じゃないんで、とぎこちなく笑う。僕の勘違いだ、ああ恥ずかしい。着替えながらシャツに腕を通す時に気がついたんだけど、焦りすぎて逆に着ようとしていた。一年生の間でファミリさんの名前が出るらしいけど、主に段竹くんが言っているのか。そういえば最近ファミリさんのこと目で追ってるもんね。

ファミリにはえらい泣かされそうになった記憶しかない、なんでってそないなことわいに聞くんか!聞きたいんか、教えてやってもええで。わいの大事なロードを解体ショーするところやってんあいつ、いじりたいっちゅーから少し触らせてみたらあれはアカン。危うくロード一台無くすとこやったわ、マネージャーでもやってええこととやったらアカンことがあんねんな。それから一度だってロードの整備なんてもんはやらせたことない、やらせたら解体ショーの始まりやからな。まあ、自分にもできることぎょーさんあるで。励ましの言葉はあいつの耳に届いたか知らんけど、洗濯頑張っとるみたいやからな。同じクラスで席も近くて派手やない女子ファミリ、誰もあいつに派手さを要求してるのとちゃうし。いつも売り言葉に買い言葉で言い合いになる日も多いねんけど、なんや、その方があっちも張りが出るやろ!張りが!わいが相手してやってんの分からんだけとちゃいます?面んくないし、可愛くないし、強いて言うんやったら毎日洗濯ありがとーくらいやで。「鳴子!あんたこの前の授業寝てたでしょ!先生に怒られたの私なんだけど!」知るかそんなもん!わいが怒られたのとちゃいますー、こうやって追いかけっこしてるくらいが丁度ええんや。このくらいの距離が楽しいのかも分からん。

「先輩って、かわいいですよね」

驚愕した、開いた口が塞がらないとはこういことをいうのか。私だけではなく部室にいた鳴子や今泉、小野田までもが驚いている。そりゃあそうだ、ミーティングが終わりそれぞれ動き出した矢先の一年生が発言した言葉に誰が驚かないと言えるだろう。静かだった部室はさらに静まり返り誰かの鼻を啜る音だとかロッカーを閉める音だとかケータイの着信音だとかそんな音ばかりが耳に入る、ただ唯一鳴子だけは大爆笑し私の肩をばっしばっしと叩いてくる、痛いってば痛いってば。笑い声もさることながら肩を叩く豪快な音も見事なものだ、いい君たち、そんな顔で見ているけれどこれは物凄く痛いのよ。優しく叩いてるとでも思った?鳴子が手加減して優しく叩くわけないでしょうが、手加減無しの問答無用で私の肩はもう崩れ落ちそうなんだからね。

「こいつの!どこが!かわええねん!」
「いや、なんていうか」
「目きちんとこすった方がええで!」

失礼しちゃう、鳴子やっぱり嫌い。段竹はいつもの調子で受け答えをしている、本当に私なんかのどこが可愛いのだろう。髪はボサボサ、可愛げない、寒咲の方が断然可愛いだろう。なのに、私のどこを見てそんなことが言えたのよ。ちらっと段竹の方を見ると、ふんわり笑顔を向けられた。なんだその笑顔、おいおいちょっと待って待って。段竹ってそんな風に笑うんだ、初めて見たかもしれない。「先輩、素朴で繊細だから」割と大きめな声で喋るため部室内に響き渡る恥ずかしい言葉の数々につい顔を赤らめてしまう、恥ずかしくないわけがない。タオルをたたむ手が止まってしまったけれど、心臓はばくばくと動いていた。一年生にそんなこと言われてなに恥ずかしがってるんだと思う人たちもいるかもしれないけれど、私はそんなこと男の子に言われたことないし、第一に段竹は一年生とは思えないほどに落ち着いている。だから話しをしていても喋りやすいし、むしろ私が気を遣うべき場面であってもそちらから気を遣ってくれるというなんとも先輩より先輩らしい振る舞いをしてくれるのだ。その段竹が、私のことを可愛いと言ったものだから周りはてんてこ舞いだろうな。中でも群を抜いて鳴子はそれが信じられないらしく、何度も私と段竹の顔を見比べては繊細ってこいつがか!?と頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

「せやけどなぁ」
「鳴子さんは、そう思いませんか」
「まったく!これっぽっちも!」
「鳴子うるさいぞ」

鳴子と今泉がギャーギャー騒ぎだしいつものように騒がしくなる部室、そっと手が伸びてきて頭をぽんぽんと撫でられた。ふせていた顔を上げれば目の前には段竹がいて、みんなが見ていなければいいと思ってこんなことしたのだろう。「何と無く思っただけなんで、気にしないでください」気にしないでくださいなんて、言わないでください。気になるし、緊張するし、恥ずかしいし、後輩なのに、変に意識してしまう。しかも何と無くってなんなの、なんで今何と無く思ったの。聞きたいことは山ほどだってあったけれどこんな状況だと聞くことすらできない。段竹の手は思っていたより大きくて、私の頭を覆うのは簡単だったらしい。誰にも見られることのない手はゆっくりと私の頭から離れていき、緊張で床に落としてしまったタオルを拾ってくれた。渡された時、微かに触れた指先に熱を感じて耳たぶを触ってしまう。火傷したわけじゃないのに、私ったら変だ。鏑木に呼ばれてその場を立ち去る段竹は小さな声でつぶやく、今度は完璧に口が塞がらなかった。

でも、みんな見る目ないなって思いました。

とびっきりの笑顔で、何言ってるんだバカ。彼は私よりも一個下の、一年生であることに変わりはない。


君 の 宇 宙で
迷子 に
な り た い



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