あ、ファーストちゃんだ、

ほわんとした声に振り返れば、視界に入ったのはブレザーの胸元どころかほとんどお腹の部分。思わず息を飲んで固まってしまうのは致し方ないと思う。全く、いつまで経ってもこれには慣れることができなかった。恋人の規格外の身長の高さには。

そんな元凶は私の心中など気づいていない様子で、どうしたの、眉間に皺が寄ってるよ〜と顔を覗き込んでくる。ハートのほくろが今日も可愛くてなんだか憎らしい。

「どうしたの葦木場」
「ファーストちゃんが見えたから来たんだよ」
「いちいちびっくりさせないでよね」
「えええ違うよ、ファーストちゃんが俺に気づかないんだよ」

俺こんなにでかいんだから普通気づくでしょ、全くもうと頬を膨らませて葦木場は私に抱きついてくる。それもそうか、イヤホン耳にさしてるからわからなかった。そう言えば葦木場は得意そうにでしょう?と笑った。
彼からのハグは歴然とした体格差のせいか抱きつく、というよりも押し潰されているような感覚だが別に嫌いではない。しっかり力も加減してくれているのが伝わり、こういったところから彼の愛情が感じられるのだ。時折愛情表現の方向がズレているのはこののほほんとした葦木場独特の性格が完璧に影響しているのだろう。
ファーストはそっと葦木場に顔を寄せようとして止めた。
なんてこと、ここは公衆の面前ではありませんか。

「離れて葦木場、今すぐに」
「え、なんで?嫌だった?」
「別に嫌じゃないけどここ街中だから」
「俺は気にしないけど…」
「私がよくない」
「えー…」

そう言ってじとりと睨めば、大抵葦木場は離れるのに今日は離れる気がないらしい。更に力を込めてきてむしろ痛いくらいだ。

「痛いよ、どうしたの」
「あ、痛かった?ごめんね」
「別にいいけどほんとに痛い」

謝りながらも力を緩める気はないらしい。ぎゅうぎゅうと抱き締められて、なんだか葦木場にすっぽり包まれて彼自身に溺れてしまったような気分だ。物理的には包まれているけれど。
少し痛いが、私を一番安心させる温もりに包まれて眠気が襲ってきた。ここで寝てしまっても、この男は軽々と自分を運んでしまうのだろう。

「あれ、ファーストちゃん眠いの?」
「ちょっとね」
「じゃあおんぶしてあげる〜」
「いいよ別に」
「ほら乗って!」

相変わらず話を聞かない男だ。憎まれ口とは裏腹に、瞼はどんどん重くなっていく。

最後に見たハートのほくろが今はとても可愛らしく思えた。


君の


で迷子


 りた
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