ふと、私って本当にあの人に必要なのかな。そう思う時がある。近くにいるのに遠く感じたり、私と彼との間に一枚の大きな壁があるように思ったり。彼の気持ちがわからないと言うか、何を考えているのか読めないというか。ふと、そんなちっぽけな事を考えてしまうのだ。離れた場所でお酒を飲みながらクロロさん達と何やら真剣な話をしているその背中に溜息を吐けば、隣で携帯片手に飲んでいたフィンクスが空になった缶を握りつぶしながらそう不思議そうな顔を私に向ける。

「浮かない顔してどうした」
「あ、いや…たいした事じゃ」

目線を逸らしてジュースを一口、口に含めば今の気持ちとは正反対の甘い味が広がる。その甘さにまた溜息を吐けばフィンクスは新しい缶を開けながら、話してみろよとそう言う。あのね。その言葉に甘えてそうぼそりぼそりと話始めるとフィンクスは手に持っていた携帯を机に置いた。今から話そうとしてる事はすごく小さくて女々しくて、めんどくさい事なのに真面目に聞いてくれるようで、すごく申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「自信がない、って言うのかなぁ」
「なんの自信だよ」
「んー…フェイタンに愛されてる自信?」

ふーんと言いながらポケットから煙草を取り出したフィンクスはいいか?と聞いて一本を取り出し火をつけた。呆れられたかな、そう思いながら灰皿を差し出せば慣れた手つきで人差し指を動かしトントンと灰を灰皿へ落とし口を開く。何悩んでるか知らねぇけどよ。灰皿にまだ長い煙草を押し付けたフィンクスは真っ直ぐに私と目線を合わせると、言った。

「お前の前だとあいつ、よく笑うぜ」
「え、っと」
「フェイの寝顔見た事あるか?」
「それは、あるけど」
「そーゆー事だろ」
「そういうって?」

意味のわからない言葉に戸惑いを見せれば、まあわかんねぇもんだよなと楽しげに笑った。何が楽しいのか笑う事をやめないフィンクスは言う、あいつと付き合い長いけど寝顔なんて見た事ないぜって。それによく笑うって?どういう事だと聞く前にフィンクスは笑う事をやめ両手を上げた。白旗を上げたようなその仕草を不思議に思いながらその目線の先を見ると真っ直ぐにこっちを見ているフェイタンと目が合う。どきん。その目に見つめられると動けなく、なってしまう。

「見てるこっちは面白いけどな」

あんなフェイ、レアだぜ?なんて言いながらクロロさん達の方へ歩いて行ったフィンクスの背中を見ながらぼーっとしていれば、するりと髪を梳かれ驚きながらその方を見ればいつの間にか隣にいたフェイタンとさっきよりも近い距離で目が合った。熱を含むそのブラックホールのような瞳に吸い込まれてしまいそう。

「ファースト」

私を飲み込むようなその目も、髪も服も。真っ黒なその色はまるで宇宙。少しくせのある私を呼ぶ声も、髪を梳くその白くて綺麗な手も。その何もかもが私を捕えて離さない。ああもしかして。私がふと不安になったりするのは迷子になってしまったからじゃないのかな。あまりにも広い場所で母親を見失ってしまい心細くなって泣いてしまう子供のように。フェイタンがあまりにも大きく深い愛情をくれるから、きっとその愛情の中で私は溺れて、その都度迷子になる。

「迷子になっちゃった」
「迷子?」
「フェイタンっていう宇宙で迷子になったの」

バカにしたように鼻で笑ったフェイタンはその腕の中に優しく私を閉じ込めた。たとえばこの世界でこんな優しい顔のフェイタンを見る事ができるのは私だけだとしたら?ううん、そんなの全宇宙で私だけでいい。私だけがいい。息継ぎも忘れる程の優しさに包まれれば言葉にできない幸福感で満たされる。

「好きだよ、フェイタン」
「ワタシもよ」

フェイタンは宇宙みたい。そう言えばフェイタンは笑う。どう言うことねって本当に楽しそうに笑う。フェイタンの気持ちがわからない事も何を考えているのか読めない所も全部全部、本当に宇宙みたい。地球に太陽が大切なように。太陽に宇宙が大切なように。私にはフェイタンが必要なの。またきっと迷子になるけれど、その度に迷子の私を見つけて、好きだよってそう私の手を引いて抱きしめてね。ぎゅうっと確認するように抱き着いて、それから。二人で顔を見合わせて笑うと優しい優しいキスをした。


君の宇宙で迷子になりたい


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