壁にかけてある古時計が、ぼぉんとにぶくやさしく鳴るものだからついうとうとと夢うつつに瞼をおろしてしまいそうになった。夕食をひとりですませ、手のつけられていない彼のぶんのごはんを前に頬杖をついて何時間になるだろう。テーブルにならんでいる、ラップのかかったハンバーグはすっかり冷めてしまっていた。せっかく綺麗に焼けたほうのハンバーグをとっておいてあげたのに。こんなことなら、わたしが食べてしまえばよかった。きっといまごろ、ふかふかのベッドで可愛いおんなのこと一緒にねむっているであろうシーザーに心のなかであっかんべをしてやる。どうしてわたしは、あんなおんなのこ大好きなろくでなし男のことなんて好きになってしまったんだろう。わたしのつくった料理を食べもしないで、毎晩ふらふらと遊びまわっている男とわたしが暮らしているのを知ったらママは泣いてしまうだろう。パパはいますぐ実家に帰ってきなさいとわたしを叱るかもしれない。そうなったら、シーザーはどうするんだろう。行くなとひきとめてくれるだろうか。悲しいことに、そんなふうな彼は、わたしの頭のなかのどのひきだしを探してもでてきてはくれない。浮かんでくるのは、「そうかい」と未練のみの字も感じさせない、いっそ爽やかにも見える彼の微笑だけだった。わたしは愛されてなんかいない。あけっぱなしにした脳内のひきだしから放たれたかのように感情があふれだして、テーブルに落下していった。上着の袖でその水滴をふきとる。感情が上書きされることがないかぎり、わたしはこの涙と一生付き合っていかねばならない。わたしは子供みたいに、わんわんと声をあげて泣いた。

どのくらい泣いていたかはわからない。泣くのに疲れたわたしはとうとう、瞼をこじ開けていようとすることをあきらめた。
「シーザー」
夢のなかの彼はとても優しくて、だからすぐにこれは夢なんだってわかった。わたしのすこし前を歩くシーザーの足音がコツコツと心地よく響いて、とまって、こっちをふりかえって、また歩きだす。わたし、まだあなたを忘れることができない。絶望した。
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