「 ナマエ、寝不足ですか? 」
「 えっ、いや、ううん…… 」
「 目のしたに、うっすらとクマがある 」
心配そうにわたしの顔を覗きこむジョルノの瞳からおもわず目をそらす。心配してくれるのはすごく嬉しいのだけれど、今わたしに心配事があるということを彼に悟られてはいけない。なんでもないといつものように笑ってみせると、ジョルノは困ったように眉を下げてわたしの手を握った。
「 すみません。本当はあなたは自分の家で暮らすべきなのに、僕のわがままで屋敷にきていただいて…… 」
ジョルノが用意した部屋に対してわたしが不満を抱いているというのはなんとなく察したらしい。わかっているのなら今すぐにわたしを家に帰してほしいものだが、目の前でしゅんと目をふせているジョルノにそんなことを言えるわけがない。
「 一般人のナマエには、ギャングばかりの屋敷は息苦しいですよね。わかってるんです。でも、どうしても今は離れたくなくて…… 」
そっちか。まあ、用意された部屋に悪霊が住み憑いているからなんて普通は考えもしないだろう。
「 おかしいですよね。結婚してしまえば、ずっと一緒にいられるのに 」
そういってジョルノは自虐的に笑う。前々から感じていた。ジョルノはわたしと長い期間会えないことをすごく嫌がる。どんなに仕事が忙しくても、毎日電話をくれて、週末には必ずわたしの家にきてくれた。基本的に、ジョルノのほうがわたしよりも忙しいのでジョルノの都合に合わせるといったかたちで予定を組んでいたが、たまにわたしの身の回りがばたばたして彼と会えない期間が長引くと彼は子供みたいに不安がって、会いたいと駄々をこねた。大事な商談の日付を変更してまでわたしの会社まできたときはさすがに驚いた。今回だってそうだ。仕事と式の準備が重なって、わたしに会うどころか寝る暇さえままならない。いつもの会いたい病もこれですこしは克服できるかもと思っていたのだが、まさか「 パッショーネの屋敷に住んでください 」と言われることになるとは。おそるべし会いたい病。ジョルノの部下の人たちはわたしのことをものすごく大事に扱ってくれる。ごはんは三食おいしい。会社への出勤は送迎つきになった。不自由な生活はしてない。悪霊のことさえなければ。
「 大丈夫だよ、ジョルノ。遅かれ早かれギャングの人には慣れないといけないんだから 」
彼という人と結婚すると決めたからにはこわいだの帰りたいだのと言ってられない。
「 それに、みんなすごく良くしてくれるし。ミスタさんはおもしろい話いっぱいしてくれるしさ。このまえ、おいしいピザ屋さんに連れて行ってくれたんだよ 」
「 当然ですよ。僕の婚約者に粗相があれば首を飛ばして身内に送りつけると言ってますから 」
おまえが一番こわいよ……。
「 そんなことより、いつのまに二人で出かけるほどミスタと仲良くなったんです? 」
「 あー、えっと、この前ジョルノがスーツ着て出かけてから3日くらい帰ってこない日あったでしょ?あの日だったかな 」
「 僕の不在を狙うとは、ミスタ…… 」
ミスタさんはジョルノがいなくなって寂しいだろうと、気をかけて来てくれただけなのに。
「 ナマエ、僕のほうがもっとおいしいピッツァをご馳走してあげることができます 」
「 デートしたいの? 」
「 はい、いますぐ 」
「 うん、じゃあランチだね 」
正面からぎゅうと抱きついてきたジョルノを受け止めて、頬にキスをする。そうと決まれば、さっそくなにを着てでかけるか部屋に戻って考えなくては。



部屋に帰ると金色の悪霊がテレビを見ていた。彼自身は喋ったりしないけれど、言葉を理解する能力はひょっとしたらあるのかもしれない。さて、なにを着ていこうか。と思ったが、どうやら悩む必要はないらしい。白いワンピースとクリーム色のカーディガンが壁にかかっている。去年のわたしの誕生日にジョルノがプレゼントしてくれたネックレスもある。誰が用意したのかなんて、考えるまでもない。ソファーに腰掛け、バラエティ番組を無表情にみている悪霊の仕業に決まっている。どうして今からデートなのを知ってるんだ。さっき決まったばかりなのに。しかも清純派コーデときた。ジョルノの趣味まで把握している。
ソファーのほうに目を向けると、キリッとした表情の悪霊と目が合った。キリッじゃねえ。



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