この部屋には幽霊が取り憑いている。ボスのジョルノもその部下のみんなも気づいてなんかいないけれど、わたしにはしっかりと幽霊の姿がみえる。全身金ぴかで幽霊のくせにやけに目立ちたがりやなやつ。なにかをされただとか、実害があったわけではないのだが、幽霊が存在しているというだけでわたしの心は平静を失ってしまう。ひょっとしたら、この部屋だけではなくて屋敷すべてが。想像するだけでゾッとする。
ジョルノには言えない。言えるわけがない。彼との結婚はもう目と鼻の先なのだ。ただでさえ仕事で忙しいのに、そんななか式の準備まで引き受けてくれて。平気そうな顔をしているけど、きのうもおとといも寝ていないのを知っている。だからこれ以上、彼の負担を増やすわけにはいかない。
「 と、いうことなので、あなたの存在をジョルノに言ったりはしません。だけど、いつでも言えるんだってことはわすれないで 」
地に足をつけず、ふよふよと宙を浮いている金色の幽霊に向かって言ってやった。向こうは相変わらず喋らず、なにかを考えているのか、それともまったく考えていないのか、無表情にわたしのことを見下ろしていた。正直こわい。だけど幽霊の一体や二体に怯えているようで、ギャングのボスの妻がつとまるか。これは試練だ。ジョルノと結婚する資格がわたしにあるのか、試されているんだ。そうでも思わなければやってられない。せいいっぱいの目ぢからで金色の幽霊を睨みつけていると、幽霊のむこうにある壁にかかった時計の針の位置に気がついた。
「 え?!もう10時半!?う、わ!ドラマ!予約してない! 」
いったいどのくらい幽霊と対峙していたのかはわからないが、気づけば、毎週かかさずに見ていたドラマがとっくに始まっている時間になっていた。これはいけない。今季一番の大注目ドラマが。リアルタイム視聴と録画を第一話からかかさずにやってきていたのに。くそ!この悪霊めが!
わたしのなかで、幽霊は悪霊に進化した。
あわててテレビをつけて、目当てのドラマのチャンネルにする。何故かヒロインが黒人男性に言い寄られていた。なんでだよ!なんでこの三十分で新キャラでてんだよ!イギリスに留学した元彼はどうなったんだよ!くそ!この悪霊めが!ぎりぎりと歯ぎしりをしていると、うしろから悪霊にちょんちょんと肩をつつかれた。こいつ。悪霊のくせに動作がちょっとかわいいのが腹立つな、あん?と振り向いて見せると、悪霊は相変わらずの無表情でテレビの下にあるDVDデッキを指さした。
「 えっ 」
信じられない。録画中のランプが点灯している。もちろん、わたしに録画予約をした記憶はない。となると、つまり、そういうことになる。
「 ま、まさか、あなたがしてくれたの……? 」
おそるおそる振り返ると悪霊はすでにそこにはおらず、ソファーの方でわたしの洗濯物をたたんでいた。
こいつ、できる。



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