さいごの夜はおおきなくちをあけて、ひっそりとわたしを待っていた。わたしはこの日にふさわしい服を着て、バス停のベンチに腰をかける。DIOさまが買って下さった、有名ブランドの純白のワンピースだ。歳をとって、身も心も汚れてしまったわたしなんかにはもったいない代物だが、花嫁のようだと彼は喜んだ。むかしのはなしだ。
だれもが明日をあきらめていた。この世界が消えてしまうのを、じっとまってるひと、めそめそと泣いているひと、みずからいのちを絶ったひと。なにもかも、今日がさいごの夜だった。やりのこしたことがひとつだけあるわたしは、夜空に咲いたお星さまから逃げるように野道をかけた。むかし、なんどもディオとふたりで歩いた道だ。このさきにあるバス停にやってくるであろうバスにのって、わたしは彼に会いにゆく。ある日突如すがたをくらませた、たったひとりのおさななじみ、ディオ・ブランドーに。世界は無常にも、あと数時間というところまできていた。わたしはバスを待ちわびる。しかしわたしの前にやってきたのは一台のバスなんかじゃなく、一匹の恐竜だった。恐竜はじいっとわたしの顔をのぞきこむ。なんとなく、おさななじみに似ていると思った。
「 いなくなった、おさななじみをさがしているの 」
恐竜はすりすりとわたしに頬ずりをして、ひとつ鳴き声をあげた。
「 てつだってくれる? 」
恐竜の背中からみる星空は、わたしが思っていたよりずっと近かった。あの星なんて、手をのばしたらとどいてしまいそう。風をきって、ぎゅんぎゅんと前に進む恐竜はなんだか楽しそうで今日がさいごの夜だということを忘れているみたいだ。このままずっと、彼の背中にのって走り続けることができたらどんなにいいだろう。人類がひとり、生き残るというのもおもしろいかもしれない。明けようとしているさいごの夜と、いつかの朝のはざまを飛び越えて、恐竜は空をめがけて走っていく。わたしは言葉をうしなった。時間がはじけとんでいくのを見た。
「 ディオ 」
恐竜の首元を撫でる。
「 ディオなんでしょう? 」
どうして急にそう思ったかは、自分にもわからない。恐竜はみじかく鳴いた。違うと言った気がした。

( 別館サイト 憂鬱より )



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