はじけるソーダ水を口にふくんでのみこんで、それからすこし間をおいて、またソーダ水を口にふくんだ。さっにからずっと、そればかりくりかえしている。ウエイトレスさんがもってきたパンケーキには手をつけていない。ぐるぐるぐるぐると、落ち着きなくソーダ水をストローでかき回す。パンケーキのうえにあったバターは、とけてかたちをなくしてまっていた。

生まれてはじめて、告白をされた。相手はおなじチームのメローネという男で、奇抜な服装といい言動といい、なにをとってもわたしとは重ならないようなぶっとんだ人間である。だから、告白だってなんだって、ぶっとんでいてくれればよかったのだ。そうしてくれたほうがずっとよかった。
「 すきだよ 」
いつもは饒舌なその口が、それ以上を語ることはなかった。ひょっとしたらなにか言っていたのかもしれないけれど、忘れてしまった。ただやんわりとにぎられた手のひらから伝わる彼の皮膚の感触とか、血液の流れとか、そんなのだけは気持ち悪いくらいに覚えている。アシンメトリーにのばされたあの金髪が、いまも、わたしの頭に焼きついて消えてくれない。奇抜な色。なにをしていてもすぐに、どこからともなくわたしの頭のなかにやってくる。朝おきて、一番に彼のことを考えさせられる。そのたびにあの真摯な彼の眼差しを思い返しては、この得体のしれない感情をはきだすようにおおきく息をついた。初恋を知った乙女のようだと。
「 そりゃお前、好きってことなんじゃねえの 」
「 ち、ち、ちがう、ちがうよプロシュート。ぜったいちがう 」
予定の時間より、すこし遅れて喫茶店にやってきたプロシュートはテーブルのパンケーキにげんなりと顔を曇らせていた。おまえ、これ好きだったよなあ、と。パンケーキは、大好きだ。けれど、なんだかどうしても今日は食べる気分にならない。胸がいっぱいで、お腹もいっぱいなのだ。
「 乙女かよ 」
「 ち、ちがうから! 」
「 じゃあさっさとあの変態からの告白に返事しろ 」
「 メローネは変態じゃないよ! 」
「 ハイハイ、恋は盲目だからな。可哀想に 」
たしかにメローネは濃い人ばかりのチームのなかでもかなり特殊なほうで、ときどきいきすぎたこともする。でも、わたしが本気で嫌がることはぜったいにしないし、なんだかんだでいつもわたしのことを助けてくれる。彼は、みんなが思ってるほど変態じゃない。と思う。だからこそ、よけいに断りづらいのだけど。こんなにわたしに良くしてくれている彼をフるだなんて、なんだか申し訳ない。
「 じゃあ付き合えばいいだろ 」
「 好きかどうかもわからない人と付き合いたくなんかないもん 」
「 おい、あそこにいるのメローネじゃねえか? 」
「 え! 」
「 うそだ 」
「 こ、この、しね!プロシュート! 」
ちいさい頃から、人の殺し方しか教わってこなかったわたしには、どれが恋で、なにが愛なのかわからない。メローネはわたしとはちがうから、きっとそんなこともないのだろう。恋とはなにかということも、愛するということも知っている。もしこの心臓を揺さぶられるような感情が恋だとするなら、わたしは彼になんと伝えればいいんだろう。どうしたら、彼はよろこんでくれるだろう。

「 え、なに。そんなことで悩んでたの? 」
「 え、あ、うん…… 」
「 俺はきみになら、なにを言われても嬉しいけど 」
けろりとそう言ってみせるけれど、その一言にどれだけわたしが影響を受けるのか彼はわかっているのだろうか。カタカタとキーボードをたたいている手にはいつもの手袋がつけられていなくて、彼の手がうつくしいということをわたしははじめて知った。水槽のなかに押し込まれたような気分だった。心臓はばくばくと脈打って、酸素は上手に流れ込んでこない。息もできないほどに、苦しかった。
「 それで、君は俺のことが好きなのか? 」
「 え、えっと、わ、わからない…… 」
舌足らずに、なんとかそうこたえる。すると、彼はモニターを見つめたまま、それは困ったなと言って笑いだした。ちっとも困ってなんかなさそうだ。
「 いまだって俺に、こんなに熱烈な視線を送っているのに? 」
「 え、あの、 」
「 わからないんだ? 」
かわいいね。そう言って彼はわたしの頭をぐりぐりと撫でまわした。





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