暑さのせいか頭がくらくらする。吐き気もひどい。自分の部屋でひとりで横になっているのがしだいに心細くなって、ふらつく足をひきずって談話室をめざした。談話室なんて名前だけのもので、実際みんなが談話しているところなんて見たことはないけれど、人通りは多い。せまい部屋で死んだみたいに眠っているよりは気が紛れるだろうと、使い古されたソファーに寝転がった。頭痛と吐気は依然として引きそうにない。
「 寝るなら部屋で寝ろよ 」
すでにわたしよりも先に談話室にいたイルーゾォが、視線は膝のうえの本のままわたしに言った。彼がこっちの世界にいるとはめずらしい。ここにいるのはだいたい、プロシュートとペッシのセットか意外とさびしがりやなギアッチョだ。基本的に鏡の世界にいる彼が、わざわざ談話室まできて本を読むなんていったいどういう風の吹きまわしだろう。うっすらと目をひらくと、手入れのいきとどいた美しい黒髪がせまい視界のなかで揺れた。
「 体調、悪いのか? 」
「 ちょっとだけ。二日酔いかな 」
「 二日酔いで吐血する人間はいない 」
あいかわらず、目は本の文字列を追うのにいそがしいようで彼はちらりともこちらを見ようとしなかった。あつい。額からながれた汗がソファーに沈む。
「 病気らしいな 」
仕事の復帰は不可能だと医者に言われた。それと一緒にそれなりの設備がある病院に入院することもすすめられたが、たいして長くない寿命をほんのちょっとのばすためだけに大金をつむ気にはどうもなれない。かわりの効く、安い命だ。なにより、仕事に復帰できないのなら生きている意味がない。
「 ……なにか、食べたいものとかないか? 」
「 え、なに、心配してくれてるの? 」
「……べつに、そんなんじゃない 」
彼は読んでいた本をテーブルのうえに置いて、わたしの前を通りすぎていった。なにを考えているのだろう。チームのみんなのなかでも、私生活で会う回数がぶっちぎりで少なかったために、それなりに長い付き合いになってきた今でも、彼の考えていることは正直よくわからない。すくなくとも嫌われてはいない、と思うけど。
「 ずっとあんたのことが好きだったから、最後くらいって、思っただけだ 」
最後くらい、なんなのだろう。彼は肝心なところを話してはくれなかった。わたしは彼をよく知らないから、彼の考えていることなんてわからない。あついし、だるい。もう、彼に話しかける気力もない。冷蔵庫のなかをあさる音が聞こえる。彼は最後まで、わたしの目を見て話すことはしてくれなかった。



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