いつもはしずかな夜が、ここ連日つづいている雨音のせいでずいぶんとさわがしい。だれにもばれないように、えらく年期のはいった扉をこっそりと押して家の外へと足をふみだす。瞬間、青々しい茂みの隙間から、顔だけだしている猫と目があった。猫はみゃあと鳴いて、それから茂みの奥にひきずりこまれるように消えてった。この森は、生き物を食らうのだ。ちいさいころ、眠くなるほどに聞かされた話を今でも信じているわけではないけれど、真夜中の森は気味が悪い。わたしはごくりと息をのんで、ぬかるんだ地面を踏みつけて前にすすんだ。買ってもらったばかりの靴に、ばしゃばしゃと入り込んできた雨はわたしが歩くたびにぶくぶくと音をたててちいさな水しぶきをあげる。しばらくしてからふりかえると、後ろは案外見慣れた景色で、すこしがっかりした。わたしはおおきな木の根元に尻餅をついて座りこみ、それからゆっくりと瞼をおろした。カエル鳴き声が聞こえてくる。雨が地面に散っていく音がうるさくて、聞き逃してしまいそうなほど、ちいさな鳴き声だ。わたしは風呂あがりみたいになった顔を服の袖でぬぐって、たてた膝にひたいを押しあてた。
「 帰るぞ 」
いつのまにかやってきたプロシュートは、苦い顔をして黒い傘をわたしの真上にさしだした。どうしてだか、いつ、どこへ逃げても、彼にはすぐに見つけられてしまう。
「 どうして、プロシュートにはわかるの? 」
さしだされた彼の手をとって立ちあがり、服についた泥をはらう。雨と一緒になって染み込んだせいで、簡単には落ちそうにない汚れだった。プロシュートに、こんど服買ってねというと頬をつねられた。わたしの方に傘がかたむけてくれているから、プロシュートのスーツは濡れてしまっている。
帰り道、歩幅をわたしにあわせて、ゆっくりと歩きながら話をするプロシュートの横顔を眺めていた。このあいだいったピッツァのお店とか、ペッシの話とかを、していたと思う。内容はもうあまりおぼえてはいないけれど、でもとても優しいかんじだったのは、いまも覚えている。




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