どこまでもどこまでも先が見えない、黒い海にたたきこまれたような気分だった。息ができない。もがけばもがくほど底の見えない真っ暗闇にしずんでいく。
「おいおい、ひどいな。出会ってそうそうに平手打ちなんて。恋人にすることじゃないぜ」
にやにやと黒い笑みを浮かべる彼を突き飛ばして、出口にむかって必死に走った。けれど、気づけばまた、わたしは彼の前にいて、また、キスを迫られる。なにが起きているのか、わからない。ただ、目の前にいるディエゴがどうしようもなく気味が悪くて、助けておねがい助けてと、もうどこにもいない恋人の名を呼んでしまいたくなる。
「もうわかっただろ?俺から逃げるのは不可能なんだ」
「こないで」
「これがなんだかわかるだろ?」
「ぎゃあ!わたしのパンツ!!な、な、なんで?!」
つまり、いまの私は、はいてない。
「た、たすけて、たすけてディエゴ……」
「そんなに必死にならなくたって、俺はここにいるだろ?」
ちがう。あなたじゃない。わたしのディエゴは、あなたじゃない。
「……そんな顔するなよ。心配しなくても、君を置き去りにした馬鹿な怪物のことなんてすぐに忘れさせてやる」
こいつ、言ってはならないことを。
「考えてみろよ。もうこの世にいないやつと死んだように生きるのと、この先もずっと君の隣にいてやれる俺と生きるのとどっちがいいか」
「いやです」
「時間を無駄にするな。死んだ俺より、いま生きてる俺を見ろ。なぁ、頼むよ。愛してやるから」
どうか、その姿で、その声で、話さないでほしい。その手で頬を撫でないでほしい。見た目だけじゃなく、中身までそっくりなもうひとりの彼は、わたしには優しいところもおんなじで、だから、もう、どうしようもなく、なにもかもを壊して消えてしまいたくなる。
「俺と結婚しないとこのパンツ食うぞ」
こいつ。




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