ミルクティー




大学が春休みなのでバイトに精を出していた、先立つものは金である。そのせいか、気が付いたら2週間ほど顔を見ていないことに気が付いた。いや、そういえば電話すらしていないから、声も聴いていない。こんな恋人関係ってありだろうか。友人たちにはお前ら熟年夫婦かと言われる、悪い気はしない。思い立ったが吉事、さっそく電話してみよう。

1コール、2コール、がちゃり


「あ、もしもし雷蔵?」
『名前?え、なんか、』
「うん、すごく久しぶりだね」
『僕もバイトが忙しくて、元気にしてる?』


なんだ、雷蔵も同じような生活してたんだ。やっぱり似た者同士なんだな私たち。


「ふふ、私もさっきまでバイトだった」
『だと思ったよ、今帰り道?』
「うん」
『暗いから気を付けて、もしかしたら、』


「『へんなひとが出るかもよ?』」


後ろからの声と、遅れて電話の声、それと右肩に乗る重み。


「…全然気が付かなかった」
「油断しすぎ、それなりに静かに歩いてたけどね」


だいぶ疲れてるでしょ、なんて、そういえば今日は特別眠いなと思った。自分が思っている以上に疲れは溜まっているらしい。肩に乗る雷蔵の頭に自分の頭を寄せる。季節はまだ冬、二人の吐く息が白く濁って夜空に消えていく様を眺めながら、家へ足を向けた。


「そうだ、はいこれ」
「ミルクティー?」
「うん、名前好きでしょ?」
「あったかいね、コンビニで?」
「ううん、自動販売機」


雷蔵にしては珍しい。自動販売機と言えば、雷蔵の一番の敵である、豊富な種類に買ってからもやはりあれがよかったかな、とか悩み続けて温かいものだと冷めるまで悩んでるのに。


「悩まなかったんだ、えらいえらい」
「名前のために好きなもの買うのに、悩むわけないだろ」
「自分のだったら?」
「…悩んでただろうなぁ」


はは、と乾いた笑いを零す雷蔵の手をそっと取った。温かい飲み物を持っていた彼の手はとても温かい、自分から手を繋いだことになんだか恥ずかしくなってきて、指先で遊んでいると、そんな私の心情に気が付いたのか、雷蔵から指を絡めてきた。


「名前から手繋ぐなんて珍しいと思ったのに」
「さむかったんですー」
「そっか、嬉しかったんだけどなー」


わかってて聞いてくるあたり、こいつは私を苛めて楽しんでいる節があるんじゃないかと思うことが多々ある。


「そういえば、なんで後ろにいたの?」
「…あのね、流石に2週間近く彼女に合わないと、寂しいでしょ」
「そう、だよね」
「名前は寂しくなかったの?」


途端、寂しそうな表情をする。私も寂しかったに決まってるじゃないか、言わなくても分かれよばか、と気持ちを込めて、繋いだ手に力を込めた。


「ありがとう、雷蔵」
「いいえどういたしまして、ミルクティー飲まないの?」


そういえば、反対の手で持っていたそれは、冬の気温のせいですっかり冷めてしまっていた。


「帰ってから飲むよ」
「冷めちゃった?」
「うん、だから温めなおしてから飲む」
「早く飲まないから、」
「一緒に、飲むでしょ?」


遠まわしに家に寄って行けと誘ってみた、ほら、雷蔵の嬉しそうな顔。



あたたかい君



(そうだね、何て言って歩く速度を少し早めた)
(明日は休みだから、ゆっくり過ごそう)





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