ラムネ
「兵助くんってラムネあんまり似合わないね。」
くすりと笑って先に空になった俺のラムネの空き瓶を受け取る名前さん。とてもよく気がきく彼女で、年上だけど年下のような感じのする人。けれど、ふとした瞬間に一年の差を思い知らされる時があって、寂しくなる。俺はあなたに追いつきたいだけで、精一杯なのに。
「名前さんはよく似合ってるよ。」
「何?ラムネ?子供って言いたいの?」
少し怒ったように睨みつけてくる。
「いや、その浴衣」
大人っぽい色合の浴衣は、今日の祭りのために俺がお願いして着てもらった。とてもよく似合っている。
「ありがとう、お世辞でもうれしいよ」
「お世辞なんかじゃないですよ」
俺は表情を変えるのは苦手だが、名前さんの前ではいつも緩んだ顔をしてしまう。彼女の笑う顔を見るだけで嬉しくて、幸せな気持ちになってくる。
「やだ、また兵助くんそんな気障なこと言う」
「こんな俺は嫌いですか?」
「他の、女の子の前でそんな優しそうな顔しないでね、」
「頼まれてもしないね」
まだ名前さんのラムネのビンは空にならない。一口飲む度に、中のビー玉がからりと音を立てる。そんな時俺は、ビンの中のラムネよりも、ラムネに濡らされた唇がとてもおいしそうだと思った。
「…今変なこと考えてたでしょ。」
「名前さんのことしか考えてないよ」
もうやだこの子、と言って顔を赤らめる。それを食べてしまおうと、顔を近づけたが顔を押し戻された。
「…名前さん、」
「人がたくさんいるのに、へんたい」
「そうです、変態です」
強情な彼女が絆されるまで、あと一歩。肩を引き寄せて、耳元で囁く。
「あんまり、年下扱いしないでくださいよ」
「あなたは年下、でしょ」
「寂しいでしょう、俺が」
「たかが一年、じゃない」
「されど一年」
「気にしすぎ、」
「名前」
少し真剣な顔をして、目を見つめる。ああ、こんなにも名前は小さい。
「もっと頼って下さい、もし今できないなら、それ相応の男になります。」
俺の言葉にそんなのもうすぐじゃないと返して、俺と距離を取ろうと抵抗しようと胸を押し返す白くか細い腕も愛おしい、おいしそう。とりあえずこのおいしい状況を有効活用しておこう。
大人な君と子供な俺(いただきます)
(そう囁いておいしそうなそれを頂いた)
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