レモネード
竹谷先輩は夏が似合う、とっても。
夏休みにはほとんどの学生が帰省してしまう。そんな中、竹谷先輩は実家で家が近いということもあり、自分から進んで夏季休暇中の飼育係をかってでた。私は8割の生物好きという気持ちと、先輩と一緒にいたいという乙女心からである。
私は竹谷八左衛門先輩に恋をしている。
「名前、次は外の方の小屋行くぞ、暑いけど大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
外の小屋には兎や山羊など、室内の生物より大きな子達が多い。今日は真夏日、照りつける太陽の元で、小屋掃除とその周辺の掃除はやはり過酷なものなんだろう、去年経験したらしい竹谷先輩は、小まめに私に大丈夫かと問いかけた。確かに、この日差しは帽子なしではやってられない。空を見上げて呆然としていると、先輩に呼ばれ、小屋の掃除を開始した。
「しかし、名前も変わってるな」
「何が、ですか?」
「普通夏休みの掃除なんて、嫌だろ?」
「私、動物好きですから」
「ははっ、俺も大好きだ」
好き、という単語に少し反応してしまった。竹谷先輩、わたし動物も好きですけど、あなたの方がもっと好きなんです、なんて言えないけれど。この暑さで頬が赤く染まっているお蔭か、私が赤面していることに先輩は気づかなかった。
「少し休憩しようか、飲み物は?」
「はい、さっき買ってきました」
木陰に座って、少し温くなってしまったペットボトルを出して見せた。熱中症予防のため、ただの水ではいけないと思いレモネードを買ったが、冷えていないとあまりおいしくない。
「…少し、ぬるいです」
「だろうな、俺にも少しくれよ」
私の手の中にあったペットボトルが竹谷先輩の手に、飲み口が先輩の口に触れて、ごくりとおいしそうな音を立てて流れ込むレモネード。あれ、これって間接、きす、なんじゃ、
「…あ、飲み干しちまった」
「い、いえ!気にしないでください!」
「いや、新しいの何か買ってくるって」
豪快な先輩のことだ、あまり気にしてないのだろう。少し悔しい。
「しかも間接キスだな、悪い名前」
「…き、気にしないでください、いつもしてますから」
からから笑う先輩。うそです、男の人となんて初めて。でも、あまり気にしてない先輩を見てると、私だけ意識してるんだと思い知らされて、悲しくなってくるから一生懸命平静を装った。でも先輩は、
「…いつも、してるのか?」
「え、あ、」
「男と?」
「いや、その」
なんだろう、怒ってるように見える。おでこに皺を寄せて、細めた目で私見た。私何か言ってはいけないこと言ったんだろうか?その後、ふーん、そうかと言って立ち上がると、近くの自動販売機へ向かった。
「飲んじまった分、新しいの買ってくる」
「え、別に気にしないでください」
「…名前!」
少し離れたところから竹谷先輩が叫ぶ。やっぱり怒っているんだろうか。
「俺は!結構、勇気出して間接キスしたんだけど!」
遠くから先輩の叫び声が聞こえた。先輩、耳が赤いですよ。
ファーストキスは何とやら(帰ってきたらどんな顔すればいいんですか先輩)
(蝉のじわじわなく音より、私の鼓動の方が五月蠅いと感じた)
[ 2/5 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]