コーヒー



一つ年上の彼は、コーヒーのよく似合う”大人”な人だと思う。ソファーに腰かけて、マグに入れたコーヒー片手に雑誌を読む姿だなんて、


「…何だ名前、人の顔じろじろ見て。」
「なんでもありません。」


眼福だ、彼女贔屓なしで様になっていてかっこいいと思う。私はコーヒーなんて、あんな黒くて苦い飲み物、飲めやしない。同じソファーに座って私が飲むのは、甘ったるいココアである。先輩の家にココアがなかったので以前はカフェオレに砂糖をこれでもかというほど入れて飲んでいた。先輩に嫌そうな顔をされた。が、頻繁に居座る私のために購入してくれたらしい。


「よくそんな砂糖の塊飲めるな。」
「そっくりそのままお返しします。」


そんな苦いのよく飲めますね。鉢屋先輩は甘いものは食べられるくせに、甘い飲み物は飲めない。先輩は雑誌読んでるし、いい加減暇になってきた。


「鉢屋先輩、そこのリモコン取って下さい。」
「二人の時は?」
「…さぶろう せんぱい、」


及第点だ、先輩はいらんと言って雑誌で頭を軽く小突かれた。あるときから名前で呼び合うような関係になった。二人きりの時は名前と決めているが、学校の時からの癖で先輩を付けずにはいられない。というか恥ずかしい。三郎先輩が、名前と名前を呼び、こちらへ移動して近寄ってきた。顔を近づけてくる、そういう雰囲気か。させるか、と近づいてくる先輩の口に、私の熱々のココアが入ったマグを押し付けた。


「あ、つう!」
「嫌です、三郎先輩の口、今コーヒーの味でしょう?私苦いの駄目です、きらい。」
「…ほう、」


三郎先輩の目つきが変わった。これはわりと怒っている、と思う。


「名前、」


反撃する時間は与えてくれず、あっという間に手に持っていたマグは取り上げられ、机の上へ。両手で顔を固定されて、三郎先輩の低めの体温が押し付けられる。無理やり閉じていた口をこじ開けられて、舌がぬるりと入り込んで、きた。ほんのりとコーヒーの後味が口内に広がり、そういう行為をしてるんだと考えたら、すごく、ものすごく恥ずかしくなってきた。満足したのか、離れてにいと三日月のように細められた目で笑う。


「お味は?」
「…にがいです、」
「なんだと、もう一回してやろうか。」
「お断りします。」
「本音は?」
「…コーヒー飲んだ後は、いやです、」
「りょうかい、」


満足そうな顔をして、もう一度唇を合わせた。


大人な恋にはまだ早い



(でも、嫌いだなんて言うな。)
(顔は見せてくれなかったが、耳は赤かった。)
(案外かわいいなこのひと)



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