いつのまにか、恋。

カリカリ、パラパラ…。静寂の中図書室で聞こえる音は、ふつうこんな擬音で表わされる。わたしは、羊皮紙に羽ペンでなにかを書く音と本を捲る音を擬音にしたつもりなんだけど…、まあとにかく、図書室というのはふつうこんな音がする場所であるはずなのだけれど、今の図書室で聞こえる音はふつうと全然違う音で。うーん、そうだなあ、うるさい。
ああ、ほら、また楽しそうに二人が顔を見合わせた。うるさくなりそう。


「ここでただの水じゃなくてサラサラシャンプーをぶっかけるのはどうだ?」

「いいね、最高だ!僕の髪でさえサラサラのロングヘアーになったんだからスニベリーだってサラサラになるに決まってるよ」

「あれは心底笑ったよ!傑作だったな」


楽しそうに話す二人は、ええと…そう、悪戯仕掛人のポッターとブラック。頭も良くて人気も高いらしいけれど、常識がないなんて残念だなあ。
そう思いながら、注意しようと二人の方へ足を踏み出した瞬間、真面目で優しいと評判のルーピンが三冊ほど本を抱えて奥の方から出てきて、口を開いた。


「二人とも、もう少し静かにした方がいいと思うよ。図書室だし…ほら、あの子も頷いてるでしょ?」


ああ、言いたいことを言ってくれてありがたい、なんて頷いていたら、ルーピンが本を置いて突然わたしのほうを指差した。そのせいで、ポッターとブラックに視線を向けられる。
え、ちょ、わたし?待って待って、巻き込まないで!面倒事は嫌いなのに!そんな心の叫びもよそに、ポッターとブラックは申し訳なさそうに眉を下げる。


「迷惑かけてるって自分では気付かなくて…ほんと、うるさかっただろ?ごめん」

「なんだかごめんね、迷惑をかけてたみたいで。ああ、君だけじゃなく図書室の他の人たちにも申し訳ない、気を付けるよ」

『ほんっとうるさかった…じゃなくて、イヤイヤイヤ、別に大丈夫ですって!やめてください!』

「本音出てるよ。ああそういえば、なんて名前なの?」

『…なまえです』


こんなのわたしが悪人みたいじゃん!
こんな状態になった原因はルーピンなのに、当の本人は何食わぬ顔して名前なんて聞いてくる。しかも痛いところ突いてきて、もうなんなんだ。なんなんだこの人。ジッと見ていると、席に座って、隣にいる茶色い髪の男の子に話しかけはじめた。ん?こんな男の子いたっけな…。


「ところでピーター、どこまで進んだ?」

『ピーター…?あ、ピーターペティグリューか』


はっと思い出して、つい本人の前で言ってしまった。やばい。名前を忘れてたなんて、わたし超失礼な人。相手も不快に思うだろう。顔をしかめたペティグリューを想像して目線を上げると、それは想定外の表情だった。


「ぼ、僕の名前知っててくれたんだ…!えへへ、ピーターでいいよ!」


ぱあっと花が咲いたように、少し頬を染めて笑うペティグリュー。じゃない、ピーター。今まで地味だと思っててごめんなさい。そう思うほど、笑顔が魅力的で、しばらく見とれてしまった。見てるこっちまで心がほかほかと温かくなりそうな、そんな笑顔。
ピーターが僕の顔変かな、と焦りだして、私の思考回路もやっと作動する。


『あ、え、っと、じゃあわたしもなまえでいいよ。ピーター、ルーピンに勉強教えてもらってるの?』

「うん、僕、頭も悪くて小テストも毎回赤点だから…。たまにルーピンが勉強教えてくれるんだ。すごい分かりやすいんだよ!」

『へえ。だってさ、ルーピン』

「それはどうも。僕もリーマスでいいよ。なまえだっけ?君が教えてあげたら?僕が問題作るからさ。頭、悪くないんでしょ?たぶん僕と同じぐらいだと思うけど」


まあ、べつに、悪くはないけど。魔法薬が完成するのも、いつもだいたいリーマスと同じくらいだし、うん、成績も同じくらいだろうね。でも、教えるってそんな。断ろうとピーターの方を見ると、期待したようなきらきらした目を向けられていて、なんだか断れなかった。


『…分かった、いいよ』

「やった…!…で、でもほんとにいいの…?僕、理解も遅いし、」

『大丈夫だって。えーと、今どこやってるの?』


そして、ピーターと一緒にリーマスの作った問題を解き進めていった。



∴ ∵ ∴



『次。変わり者のウェンデリンが何回も火あぶりにされたのは?』

「えーっと…十四世紀?」

『せいかーい!じゃあ、最後ね。ウェンデリンが捕まった回数は?』

「死なない死刑だから、47…四十七回!」

『おおースゴイ。正解!やればできるじゃん』


まあ、すごい時間はかかったけど、それでも頑張ったと思う。そう言うと、ピーターはありがとう、と言って笑った。あの、花を咲かせるような笑顔で。私はしばらくフリーズしていたようで、ハッと我に返った時には、もうピーターたちが本を片付け終わっていて、図書室から出ていくところだった。
あわてて私は叫ぶ。


『ピーターって、笑顔がすごい素敵だね!また見たいから、勉強、一緒にしてくれる?』

「…えっ、ぼ、僕でいいの…!?」

「ピーター良かったな、モテ期じゃねえの?」

「もちろんだってさ!」

「ちょ、ちょっとジェームズ…!」

『楽しみにしてる!』



いつのまにか、恋。
(はー、顔熱い)
(そこ、図書室では静かに!)
(ああ、もうあの笑顔なんなの…ずるい)
(ちょっと聞いてる!?)






あとがき
ピーターに勉強を教える、なのにほぼそのシーンがない…!?
ほんと、ヤマダくん様ごめんなさい。
全力で土下座するしかない。申し訳ない。
私もピーター大好きなので、書いてて楽しかったです…!
企画へのご参加ありがとうございました!


しおり