なんたって恋愛初心者

あ、あれ海明学院の3人組じゃね?
彼らを見つけた瞬間、私は自然と歩く方向を変えていた。どうせ行くあてもないからいいんだけどね。


『よっ、3バカくんっ、こんなところで何してんのー?』


3人の後ろからそっと声をかけると、それぞれいい反応を返してくれた。マーボはうおあ!?とかよく分からない言葉を発して、トミオはわっ、ビビるだろ!と驚きつつ呆れ、そして城島は面白いくらい跳ねた。ほんっと、大げさすぎるレベルで。喋んないけど。
これだからこの人たちは嫌いになれないわ、っていうか好きだわ!なんて思いながらケラケラ笑っていると、結構重要なことに気づいた。あれ、あの人いないじゃん。どうして気づかなかった自分!?


「何してるって名前こそだろ」

「そ、俺らはサボってんの!」

『ま、私もサボってるんだけど!あっれー?賢二くんは?』

「あ、あいつなら女の子とデートだってよ…クソッ…!」

「抜け駆けしやがって…!」


城島もコクコク頷いている。悔しいのか、そうかそうか。


『だけどほらまあ、今はみんなのアイドル名前ちゃんがいるじゃん!感謝しなって!』

「全然アイドルじゃねーだろ!」

「いやまあ顔は置いといて、性格に難ありすぎて!」

『うわ傷ついた』


いや、言うほど傷ついてないけど。ちょっとは傷ついた。
そんな可愛くないことを言うトミオとマーボは置いておいて、2人の意見に対して首を横に振っていた城島は可愛がってやろう。お前はいい子だ。


『もう、城島大好きー!』


城島に抱きつくと城島が真っ赤になっていた。待って待って、女慣れしてないにも程があるでしょ…まあそうか、こいつらとつるんでるんだからな。そんなことを思いながらマーボとトミオを冷たい目で見ると、マーボとトミオがなんだかギャーギャー言い出した。


「ちょ、名前胸当たってんぞ!」

「ずるいぞジョージ代われ!」

『あんたらはみんなのアイドル名前ちゃんにひどいこと言ったから無しでーす』

「そんな…!」


あんたらが悪いんだからね、とあっかんべーするとトミオにそんなんだから彼氏できないんだよ!と言われた。彼氏くらいいたことあるわ、一生童貞!と返して言い争っていると、マーボがなぜか無言なのに気づいた。うるさい奴が黙ってると違和感すごいわ…やばいわ…。
マーボの謎の威圧感に圧倒されたらしいトミオと城島は運転手がもうすぐ来るとか今日パーティーだとか金持ちしか使えない言い訳で逃げやがった。クソ、城島、さっきまでのいろいろ取り消しだ!

なぜか黙りこくっているマーボと2人きりにされて、超気まずい。これはなんとかせねば。でもどうすりゃいいんだ。分っからん…。とりあえずいつも通り喋りかけよう、うん、とマーボに声をかけることにした。


『あいつら帰っちゃっ…わっ!?』


あれ、なんでこんなことになってるんだ。私が声を出してる途中、マーボに左肩をつかまれる。しかもまあまあ痛い。え、待ってください綾小路さん、落ちつこうよ!?なんて言える雰囲気でもなく。マーボがなにか言語を発してくれるのを待つだけ。沈黙とか、私苦手なんだけど。耐え切れずに声を出してしまう。


『あのー綾小路さーん…?』

「…なあ」

『う、ん?』


期待に応えてマーボが声を発してくれたけれど、それは明るいものではなくて、雰囲気は断ち切られることはなかった。


「名前、ジョージ以外の男にもあんなことやってんの?」

『え、いや、まあ仲いい人…には…』

「…オレ名前のこと好きだから嫉妬するんだけど」

『…は?』


なんだなんだ、目の前のマーボはなんで顔赤いんだ。なんで私も赤くなってんだ。おい、自分。おいおいおい。
突然すぎて、罰ゲームなのかなんなのか分からない。あ、でも思い返すとマーボ変なとこで拗ねたりしてたよな…坊ちゃま特有のなんかかと思ってた…あれか、じゃあこれ…罰ゲームじゃ、ない?


『待って、私全くそんなの思ってなくて、』

「だから、今日からちょっとでも意識してもらえたらいい」

『…っ』


もう、ちょっと意識しちゃってんだけど。これからどうなるんだろう。やばい、もうすでにヤバい。そんなことを思いながら、私はマーボにまたねと叫ぶと無我夢中で走った。



なんたって恋愛初心者
(やばいやばい、明日からどうしよう)
(あー…緊張したー…!)


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