理佐]


優が街を出てから2回目の冬がきた。
最初の頃は毎日連絡を取って、毎日電話もして。
でもだんだんと回数が減り、お互いバイトや勉強のせいにして1日1回、おはようやおやすみだけの日も。
でも、なんとなく…なんとなく声が聞きたくなって電話をかける。
プルルルルと続く呼び出し音。
やっぱり出ないかな…
もう寝ちゃったかな…


『…もしもし。』

「あ、もしもし…?」

『どうした?』

「いや、特に用はないんだけど…」

『ゴホッ!ゴホッ!そっか… 最近返事あんまりできなくてごめんね?』

「大丈夫だよ。勉強忙しいんでしょ?」


いつもと違うように感じる声、会話の途中にちょこちょこする咳。
マイクから離してるんだろうけど、丸聞こえだよ…
こんなの心配になっちゃうじゃん…
次の日の朝、やっぱり優に会いたくなって急いで荷造りをして、電車に乗り優がいる東京へ。
電車を何回か乗り換え、前に教えてもらったアパートの住所をマップに打ち込み探す。
途中でコンビニに寄って、薬と熱さまシートと優の好きなチョコを買う。
そして日も落ちて暗くなった頃にたどり着いたアパート。
送ってくれた写真通りだ。
ピンポーンとインターホンを押すと、びっくりした様子で出てきた優はマスクをしている。


『理佐…なんで…』

「来ちゃった。」


少し涙目の優。
相変わらず鼻声で顔色も良くない。
ドアが閉まった瞬間、そんな優に抱きつくと熱を測らなくてもわかるぐらい熱い体。
ゴホゴホと口を閉じたまま軽く咳をしている。
なんでそんなに無理して頑張るの…
私にはわかんないよ…


「無理しすぎだよ…」

『理佐…?』

「辛いなら呼んでよ…」

『ごめん…』


そう言って背中に手を回してくれる優。
今、部屋汚いけど大丈夫?と笑いながら確認してから部屋に通してくれる優。
机には勉強で使っているであろう参考書や、教科書が積み重なっていて、ノートにびっしり何か書かれている。
キッチンにはカップ麺のゴミやコンビニのレジ袋がたくさん。


『来るなら言ってくれれば駅まで迎えに言ったのに。ここ分かりづらかったでしょ?』

「その体調でよく言うよ。」

『ははっ バレてたか…』

「おでこ出して。」

『ん。冷たっ!』

「薬も買ってきたから。飲んでないでしょ?」

『なんでもお見通しじゃん…』


嫌がりながらも薬を飲んだ優をそのままベッドに向かわせる。
ご飯食べないの?って聞いてきたけど無理させたくないし、もう眠いからと言って一緒にベッドに寝転ぶ。


『理佐もマスクする?風邪うつっちゃうかも。』

「大丈夫。」

『久しぶりだね、一緒に寝るの。』

「優、全然帰ってこないんだもん。」

『帰ったら、こっちに戻りたくなくなるじゃん。なにー?寂しいの?』

「…別に。」


素直じゃないなあと後ろからギュッと抱きしめてくれる優。
見えないけど、きっと私の大好きな笑顔で笑ってるんだろうなあ。
目を覚ますと、寝た時と体勢は変わっていて優と向き合っていた。
顔をそっと触ると、薬が効いたのか昨日とは全然違う体温。


『ん…おは…』

「ごめん、起こしちゃった?」

『ううん…』


そう言いながら私の首元に顔を埋めて、まるで私を抱き枕かのように足を乗せてきて、また寝てしまった優。
この癖、変わってない。
そんな事を考えながら私ももう一度目をつぶる。
もう一度目が覚めてもまだ寝ていた優。
起こさないようにベッドから降りてキッチンへ。
ゴミを片付けて、冷蔵庫を開けると何も入っていない。
近くにスーパーあった事を思い出し、買い物をしていると優から電話がかかってきた。


「もしもし?」

『もしもし!今どこ!』

「今?スーパーにいるよ?」

『スーパー?なんで?』

「ご飯作ろうと思ったら冷蔵庫に何もなかったから。ご飯普通に食べれる?おかゆにしとく?」


普通に食べると言って一方的に切られた電話。
少し怒ってる?拗ねてる?いや、焦ってた?
ささっと買い物を済ましてアパートに戻ると、ソファに座ってテレビを見ていた優はおかえりとこっちを見ずに呟く。
キッチンに立ってご飯の準備をしていると、後ろから大好きな匂いに包まれた。


「ふふっ 帰ったかと思った?荷物置いてあるじゃん。」

『見てなかった。』

「熱は?測った?」

『もう微熱程度まで下がったよ。ありがとう。』


ちょっと横を向くと真横にある優の顔。
いつもなら絶対キスしてくるのに、今日はしてこない。
なんでだろと思っていると、まるで心の中を読まれたかのように優が一言。


『風邪うつっちゃうから。』

「あー…まあいいや。」


そう言って初めて私からキスをすると、なぜか優が照れ臭そうに笑っている。
ほんとは一緒に帰って前みたいにたくさんデートしたいし、ケンカしたり、仲直りのキスをしたり、ただ一緒にいるだけでいい。
でも夢の邪魔はしたくないから、今はいい恋人を演じるよ。


『理佐…好きだよ。』

「何、急に。」

『理佐が彼女でよかった。』

「…」

『帰らないで…』


弱々しい優の声。
料理をする手を止めてクルッと回って優の顔を両手で挟む。


「頑張るんでしょ?」

『うん…』

「あと半分。」

『うん…』


頑張ると言った優。
普段、口にしないけど寂しいのはお互い様だったみたい。


「あのさ、大学卒業したらこっちで働こうと思ってるんだ。」

『じゃあさ…毎日会うの面倒だし、一緒に住もうよ。』


優からの思わぬ言葉。
もちろん嬉しい。
毎日会いたいなんて今でもそうだ。
あと2年。
会いたくなったらまたこうして会いにこればいい。
もう一度顔を近づけると、少し顔を引く優。


『風邪うつってもしらないよ。』

「もう1回したから何回しても一緒でしょ。」


そう言って唇を奪うとニコっと大好きな笑顔で笑っている優。
するとすぐに長く深い優しいキスをされ、ベッドまで連れていかれる。
横になるとカーテンの隙間から見えた青空。
しっかり閉めようと手を伸ばすと、すぐに察した優がきっちり締めて薄暗くなる部屋。
そして視界はすぐに天井と優だけになった。







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