[ねる]
ずっと楽しみにしてきた修学旅行。
仲の良い子達とグループになり、回りたいところを徹底的に回って行く。
ホテルに着いてご飯も食べ終わり、1人1人の時間を過ごしているとさっきまで布団でくつろいでいたはずの優の姿が見当たらない。
「あれ?優は?」
織田『隣のクラスの子に呼び出されてたよー?』
茜『今頃抜け出してデートしてたりして!』
愛佳『見つかって怒られてほしい。』
「帰ってくるかなあ…」
理佐『ねるがちゃんと監視しておかないと。』
「だって修学旅行に来てまで、呼び出されるなんて考えてもなかった。」
修学旅行だからこそでしょってみんなに言われて落ち込みつつ、優の帰りを待つ。
でも全然帰ってこない優。
お風呂から出ると何やら部屋が騒がしい。
その理由はすぐにわかった。
愛佳『で?付き合う事にしたの?』
「うるさいなあ…」
茜『それだけ教えて!』
「言わない。絶対言わない。」
理佐『否定しないって事は…』
愛佳『嘘でしょ?誰?まじで言ってんの?』
『えっ…ねる?なんで泣いてるの?』
自分でも知らないうちに流れていた涙。
優しく涙を拭ってくれた優は困った顔をしている。
それもそのはず、理由もわからず友達が泣き始めたんだから。
他のみんなはきっと察している。
『どうしたの?体調悪い?』
「ううん。大丈夫。」
『そっか。』
そう言って近寄ってきた優にギュッと抱きしめられた。
泣き止みたいのに、涙は止まるどころかどんどん溢れてくる。
なんで…
優しくしないで…
ずるいよ…
「だいっ…じょうぶ…だからっ…」
『目の前でこんなに泣かれてほっとけると思う?』
「…」
『無理に話してとは言わない。』
「愛佳っ…」
愛佳『ごめん、優。離してあげて。』
そう愛佳に言われるとすんなり離してくれた優。
優から離れて愛佳に抱きつくと、優は部屋から出て行ってしまった。
続いて理佐も優を追いかけて部屋を出て行った。
茜『ねる、大丈夫?』
「みんなごめんね…」
齋藤『まだ付き合ったとは言ってなかったし…』
「明日から気まずいなあ…」
織田『理佐が追いかけて行ったし、大丈夫でしょ。』
愛佳『ねる、優に言うなら今だよ。』
「え?」
愛佳『優、ほんとに付き合っちゃうかも。』
携帯の画面を見ながらそう言う愛佳。
きっと理佐から何か連絡があったのだろう。
涙を拭いてくれた愛佳にお礼を言って、部屋を出る。
そして愛佳が教えてくれた通り中庭のベンチに行くと、空を見上げている優の姿を見つけた。
理佐の姿はもうない。
「優…」
『…』
チラッとこっちを見てまた空を見上げる優。
そんな優の横に座ると少し距離を取られる。
「星沢山出てるね。」
『うん。』
「さっきはごめんね。」
『何が?』
「突然泣いて。」
『理由があったんでしょ?私も気づかないうちにその理由に触れちゃったんだよねたぶん。』
さっきよりも困ったような泣きそうな顔をしている優をみてまた視界が滲む。
困らせてるなんてわかってる。
涙が溢れ落ちる前に今度は自分で拭う。
『ねるって好きな人いる?』
「えっ…」
『私はいる。その子は可愛くて、優しくて、すごく周りを見てて気が使える子で…』
「うん…」
『泣いてても理由教えてくれなくて、悩んでるなら言ってほしいけど、言ってもらえず突き放されて。』
「…」
『好きすぎてどうしていいかわかんなくて…もう叶わないなら自分の事を好きでいてくれる人と付き合った方が幸せなのかなって思えてきちゃって…』
空を見上げている優との距離を詰めてピタッとくっつく。
そして優の手を握り、肩にもたれて体重を預ける。
「ねるじゃだめ?」
『え?』
「好きだよ…」
『ほんとに言ってる?』
「全然気づいてくれないじゃん。」
『ねるこそ。』
「ずっと前から呼び出しなんか行かないでって思ってたよ。」
『もう行かない。』
「ほんとに?」
『ねるが付き合ってくれるなら。』
ニコッと笑ってこっちを見る優。
答えは1つしかない。
優が期待している答えの代わりに優のほっぺにキスをする。
「約束だよ?行ったら怒るからね?」
『わかった。だからもう1回。』
そう言って優は人差し指を自分の口に当てて待ってる。
そんな優に目をつぶって近づいた時、思っていたよりも早く柔らかい感触にぶつかった。
「絶対動いたでしょ。」
『さあね。部屋戻ろ?』
とぼけ顔をしている優に手を引かれて部屋に戻ると何も言ってないのにみんなニヤニヤしている。
それもそのはずさっきまで人数分あったはずの布団が1つ足りない。
優はためらうことなく残り1つの布団に寝転んだ。
そして優に続いて不自然に空いた優の右側のスペースに寝転ぶ。
今日はいい夢が見れそうだなあ。