[飛鳥]
仕事終わりに優から連絡が入った。
今から会えないかと。
もう遅いし、明日も仕事だからと断ったけどどうしても用事があると聞いてくれない。
「少しだけだよ。」
『うん。30分ぐらいしたら帰るから!寝る準備していいよ。』
「なんか用事があるんじゃないの?」
『そうだよ。でもまだ時間じゃないから。』
「時間?あっ…」
『1番に言いたくて。ただそれだけなんだけど。』
「そんな事かよー。」
あと少しだねとニコニコしながら雑誌を読んでいる優はもうこっちを見ていない。
そんなに本物より雑誌がいいのか。
「ねえ。」
『何ー?』
「あと5分だよ。」
『おっ!もうそんな時間か。』
「全然興味ないじゃん。」
『飛鳥、こっち!』
さっきまで構ってくれなかったくせに…
優の横に座ってその時を待つ。
そして時計の針が12の上で重なる。
『誕生日おめでとう。』
「ありがとう。」
『誕生日プレゼントだよー。』
「開けるよ?」
『いいよー。』
「時計?」
『可愛いでしょ?ねえ、可愛い?』
「可愛い。ありがとう。」
『これ、私がカスタマイズしたやつだから世界に2個しかないんだよ!』
「2個?」
今までに見た事のないような笑顔で右手を出してきた優の腕には、同じ時計がついていた。
「なんで右手?」
『え?』
「右利きでしょ?普通左手につけない?」
『そうなの?時計つけないから。』
「そうじゃん。」
『でも飛鳥とお揃いのつけたくて。』
右手に付いていた時計を受け取って、代わりにつけてあげるとありがとうと凄い嬉しそうな顔をしてる。
たったこんな事でこんなに喜んでくれるのは優ぐらいなんじゃないのかな。
『じゃあ帰るね。』
「泊まっていきなよ。」
『え?いいの?』
「やっぱ帰って。」
『やだ!泊まる!一緒に寝る!』
「えー、一緒に寝るのはちょっと…」
そう言ってお風呂に入って出てくると、ソファに座っていたはずの優の姿が見当たらない。
リビングの電気を全部消して寝室に向かうと、ベッドのど真ん中で寝ている優の上に乗る。
「こら。起きろ。」
『寝てた…』
「どっちかに寄って。」
ゴロンと転がった優の横に寝転ぶ。
携帯を見ると、メンバーからのお祝いメッセージが届いていた。
それを見ていると、突然こっちを向いた優。
『1番は私だもんね。ずっと。』
「えー、もういいよ。気持ちだけもらっとく。」
『とか言って嬉しいくせに。』
「まあ、お祝いされて嫌な気はしないよ。」
『でしょ?来年は違う関係でお祝いできるかな?』
「ふふっ どうだろね?優次第じゃないかなー。」
『私次第かー。でも飛鳥から変えるのもありなんじゃない?』
天井を見つめてる優の横顔はとても真剣な表情なのが伝わってくる。
お互いの気持ちをわかっているからか、それ以上進めなくなっていた私達。
少しだけ触れていた優の手を軽く握ると、優の口元が緩むのと同時に繋ぎ直された手。
『おやすみ。』
「おやすみ。」
そう言って目を閉じた優。
少しずつ関係が変わっていくのもいいんじゃないかな。
私達らしくて。