[飛鳥]


楽屋の隅っこに椅子を持っていき、本を読む。
そんな優雅な時間もつかの間。
膝の上に座ろうと片足をあげる優の姿が視界に入る。


「えっ、ちょっ、本読んでるじゃん!」

『うん。』

「邪魔しないでよ。」

『暇なんだもん。』

「いくちゃんのとこ行きなよ。」

『飛鳥がいいの。』

「えー。」

『じゃあ飛鳥上。本読んでていいよ。』


優は別に私と話したくて近寄って来ているわけじゃない。
一緒にいたって特に話すわけではない。
でも何度も寄ってきてくれるという事は、それでもいいからなんだろう。
優の上に座り直すとお腹に手に手が回ってきて、背中に顔をつけてギュッと抱きしめられる。


「苦しいんだけど。」

『飛鳥充電中。』

「優ってさ、私の事相当好きだよね。」

『うん。大好き。付き合って。』

「やだよ。」

『なんで。』

「好きじゃないから。」

『じゃあ、好きになってもらうまで頑張る。』

「絶対好きにならない。」


口ではこんな事を言ってしまったけど、心の中は正反対。
きっと優よりも先に好きになっていたし、好きな気持ちも私の方が大きいだろう。
でも、性格上素直に言えないし甘えれなかった。
初めて優が寄ってきた時、ドキドキが止まらなかったのを今でも覚えている。


秋元『2人ともこっち向いてー!』

「ん?」

秋元『乃木撮用だよー。』

『ほら、飛鳥!あっち向いて!』

「やだよー。」

秋元『いくよー?ハイチーズ。』


お幸せにとニコニコしながら去っていった真夏。
この前真夏にうっかり優の不満を言っちゃったんだよね。
3期生にデレデレしすぎで一緒にいる時間が減ってしまったと。
早く伝えれば?と言われたけど、今好きと言ったらダメな気がすると直感で感じるんだよね…


『ほっぺにちゅーでもすればよかった?』

「しなくていい。」

『ねえ、どうすれば飛鳥に振り向いてもらえる?』

「そうだなあ…優のご飯食べたい。」

『じゃあ、今日うち来る?』

「行かない。」

『えー!じゃあ作れないじゃん!』

「だって行くのめんどくさいんだもん。」

『じゃあ、飛鳥の家行く!いい?』


優の家行ってもいいんだけど、いたるところにある他のメンバーの私物が目につくんだよね…
メンバーに嫉妬なんてしたくないけど、こんな独占欲が出てきてしまうほど優の事が好きになってしまっている。


「いいよ。帰りに買い物して帰ろ?」

『この前美味しいお肉屋さん見つけたの!飛鳥に教えてあげようと思ってたんだよねー!』


ニコニコしながらそう言う優。
優が私の事を考えてくれていると感じて思わず口元が緩む。
思わず好きと言いそうになるのを堪える。
素直じゃないかもしれない。
ずっと想ってもらえるとも限らない。
そんなのわかってる。
でも伝えるのは今じゃない気がするんだ。
だからまだ言わない。
自分の直感を信じるんだ。








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