[ねる]
今日こそ想いを伝えるんだ。
関係が変わってしまうかもしれないけど、いつまでも立ち止まっているのも嫌だ。
そう意気込んで優の部屋のインターホンを鳴らすと、ガチャと開いたドア。
『早かったね。』
「そう?」
『夜はまだ涼しいねー。』
そう言いながら部屋の奥へと先に行ってしまった優。
部屋に入り優と少し距離を置いて座る。
用がないのに優の家にくるのはよくある事。
だから優はテレビを見て、笑ったり画面につっこんだり普段通りくつろいでいる。
「ねえ。」
『ん?』
「そっち行っていい?」
『いいよ。おいで。』
足を伸ばしてソファにもたれている優の上に座る。
すると体を左右に揺らしてテレビが見えないとアピールする優に合わせて、わざと見えないように同じく揺らす。
『CM終わっちゃうー。降りてー。』
「やだー。」
『ほら、そんなしかめっ面してると可愛い顔が台無しだよ?』
いつも適当に流されて終わり。
本音を言うと、適当に言われる可愛いという言葉でさえ嬉しくなってしまう。
勝手にドキドキして、勝手に落ち込んで。
優はそんなこと1ミリも考えた事ないんだろうなあ。
そう思いながら、ジワジワ優に近づいていく。
『近い、近い。』
「近づいてるもん。」
『ちょ、ほんとに!どうしたの?』
優の後ろはソファ。
逃げ道なんてない。
顔を近づけていくと、余裕そうだった優から笑顔が消えていく。
肩を押されて少し距離を取られる。
気まづい空気が流れる。
「ごめん…」
『こっちこそなんか…ごめん…』
「かえ…」
『だめ。』
「え?」
『帰らせない。』
そう言って優にギュッと抱きしめられる。
予想外の展開で言葉が出ない。
顔を上げて優を見るといつもみたいに笑ってるのかと思ったら、顔を真っ赤にしてこっちを見ていた。
「顔真っ赤。」
『誰のせいだと思ってんの。』
「そんな反応されると勘違いしちゃうよ…」
『こっちの台詞なんだけど。こんな事されて冗談はキツイよ?』
「だって押し返すから…」
『あんな可愛い顔で寄ってこられたら、耐えられないもん。私の勘違いだったら…っん…』
優の言葉を遮るように唇を塞ぐ。
1度離れると逃げられないようにしっかりと首に手を回され、今度は優から。
「好き。」
『うん。』
「大好き。早く言えばよかった。」
そうだねと言いながら優はもういつもの優しい笑顔を浮かべて、頭を撫でてくれる。
でも優は言ってくれない。
1番言って欲しい言葉を。
言ってよって言って言われるのもなんか違うし…
じーっと優の目を見つめると察したのか、目をそらす優。
『ねる、恥ずかしいからあんまり言わないと思うからちゃんと聞いててね。』
「うん。」
『好きだよ。えっと…絶対大事にするから…付き合ってほしい…』
やっと聞けた。
頷くと、また優に抱きしめられる。
離れようとした時に待ってと耳元で声がしたと思ったら、続けて優が呟いた。
『もう少しこのままがいい。』
「んー。あっ!テレビ見てるやろ!」
『ははっ!バレた?』
そう言うとパッと離してくれた優。
こんなマイペースな優が大好きだ。