[七瀬]
仕事終わりに大好きな人に電話をかける。
『はーい、どうした?』
「あ、もしもし?優?今何してる?」
『今ご飯作り始めたとこ。』
「今から優の家行っていい?」
『いいよ!ご飯食べた?』
「まだ食べてへん。」
『じゃあ、七瀬の分も作って待ってるね。』
「え、ほんま?ありがとう。すぐ行くな。」
優はまだ知らない。
この時私が一大決心をして向かう事を。
ずっと言えなかった事を告げる為に私は早足で優の元へと向かった。
ピンポーン!
『早かったねー。』
いつも通り可愛い笑顔で迎えてくれる彼女。
まだご飯作ってる途中なのかエプロンをしててできる女感が漂ってる。
『外寒くなかった?もうすぐご飯できるから待ってね。』
そう言ってまたキッチンに戻って鼻歌を歌いながらまたご飯を作り始めた。
『七瀬、ご飯できたから運ぶの手伝ってー!』
「はーい。」
ご飯を食べ終わって落ち着つくと何かを察したようにこっちを見ている。
でも、何て言い出したらいいかわからない。
優を傷つけたくない、でも言わなければならない。下を向いていると…
『七瀬、なんか言いたいことがあるんじゃない?だから来たんでしょ?』
「うん…あんな…この前受けたオーディション受かってん。」
『え、よかったじゃん!お祝いしなきゃ!』
自分の事かのように喜んでくれる優。
でもなかなか言えなかったのはこの後のことで…
「でもな、恋愛禁止やねん。」
『それってつまり…』
みるみる優の顔が曇っていく。
「……別れてほしい」
なんて言われるんやろ。
長い沈黙が流れる。怖くて顔をあげられない。
この沈黙をやぶったのは優だった。
『そっか…そうだよね…七瀬、こっちきて』
顔をあげると目に入ったのは涙を流しながら微笑んでいる優。
両手を広げている優の元へいくとギュッと抱きしめられる。
「七瀬が決めたことだから、私は応援するよ。誰よりも1番。なにがあってもね。頑張れ。」
その言葉を聞いた瞬間から涙が止まらなかった。
優は別れることを文句を言わず受け入れてくれた。
全て私のわがままなのに。
全て私の為に。
当たり前の事だけど、大好きだから傷つけたくなかった。
大好きだから離れたくなかった。
でも強くならなきゃいけない。
今よりずっと。
「絶対夢叶えるよ。見ててな」
『うん。』
家に帰ると優と別れたという事実に1人で向き合う。
涙が止まらない。
たくさんの思い出が蘇る。
たくさんケンカもした。
たくさん色んなところにも行った。
優しい所、クールに見えてお調子者な所、可愛い所全部全部好き。
でもいつかこれを好きだったに変えれるように私は強くなる。
-6年後-
「ごめん、優待った?」
『遅いよ七瀬!』
ふくれっ面で迎え入れてくれた。
ご飯を食べて、他愛のない話をして。
「あんな、優に報告あるねん。」
『え、なになに?』
「東京ドーム決まりましたー!!」
「…。」
何も言わない優。
顔を覗き込むと泣いている。
「なんで泣いてんねん。」
『なんかいろいろ込み上げてきちゃって…おめでとう。頑張ったね。』
そう言って頭を撫でてくれる優。
「ありがとう。」
あの日私は1つ大事な物を捨てた。
そして夢を叶えた。
これでよかったかなんてわからない。
でも、いつかまた優に伝えたい。
やっぱりずっと大好きだよって。