弟に間違えられる



「あんた、弟いたっけ」

 これはまずい。
 隣にいる蓮の眉間にはすでに皺が寄せられている。あまり刺激しないで欲しいが、質問に答えないのは不自然だ。
 ひょんなことから知り合った蓮と、紆余曲折を得て友人関係まで持ち込んだが、彼は四つ年下で、なんなら中学生で、体も私より小さい。トンガリのおかげでそれほど低く見えなくもないが、側からの意見はこういう事で。

「い、いやぁ……?」
「何で疑問系?」

 休日のショッピングモール。友達に会わぬわけもなく。先程まで機嫌良くアイスを食べていた蓮は、彼女の質問にも私の態度にも苛立ち始めている。

「おい。この無礼な奴は何だ。まさかキサマの友とでも言うまいな」
「ねぇ、ちょっと本当に何? あんたの親戚にしては生意気すぎない?」
「親戚……。ま、遠からずともそうなる予定だとは言っておくか」
「ややこしくしないでよ」

 嬉しそうに鼻を鳴らす蓮を牽制し、バカみたいな理由でごまかす。

「あー、えっと、ちょっとウチで預かってる子!」
「なっ!? 誰が──、」
「へぇ。じゃあ一時的な保護者って感じか」

 彼女の歯に衣着せぬ物言いが大好きだ。けれど今はちょっと遠慮して欲しかった。
 瞬時に殺気を放って瞳孔を開き切りそうな蓮を連れて、用があるからと強引に解散する。彼女の姿が見えなくなる所まで走ると、蓮の方から勢いよく手を振り払われた。

「オレは、紹介にも値しない男と思われているらしい」
 
 恐ろしく低い声で私を責める。

「流石に言えないよ。シャーマンだとか霊だとか、普通の人になんて説明すれば良いか……」
「っ、その事では無い!」
 
 蓮はやけに突っかかってきた。理由が見えず、首を傾げながら先日あった事を思い出す。しかし尚のこと分からない。

「何でそんなに紹介して欲しいの? この前お兄ちゃんに"友達"って話したら怒ったじゃん」
「違う!」

 蓮が地団駄を踏んで足を鳴らす。怒りは頂点に達していたが、本当にわからない。勢いよく息を吸った彼が、周囲も気にせず喚きに近い声を上げた。

「何故オレを恋人だと紹介しなかった!」
「え? 誰と誰が恋人?」
「……は?」
「…………えっ?」


240109


  

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