恋連鎖 | ナノ
「……もう、時間が無いみたい。
結ちゃん、ありがとう。こんなに短い時間だったけれど、貴女にはとても迷惑をかけてしまったわ」
「いえっそんな…」
「それに、お友達ができたみたいで嬉しかったわ。本当にありがとう」
嬉しいのに上手く表情を作れずにいた結は
「トシとは…もういいんですか?」
と、尋ねる。
一瞬ミツバは驚いたけれども、すぐに微笑を取り戻して口を開く。
「ううん。本当はもっとお話したかったわ」
「じゃあっ……!」
結が言いかけると、ミツバは遮るように言葉を重ねる。
「でも
でも…もしあのとき十四郎さんが、まだ私の事を好きだって言っていたら、私きっと十四郎さんの事引っ叩いていたわ」
また、ちょっと無邪気な笑顔になって
「いつま死人への思いを引きずってるんですかー?って。……好きだったからこそ、あの人にはもっと幸せな道を進んでほしいの」
五月の暖かな風が、三人とミツバの間をスゥッと通り抜ける。
ミツバは空を見上げ、もう一度あたしたちのほうに目線を合わせると静かに口を開いた。
「……時間みたいだから」
「待ってくだせェ姉上!……俺は…俺ァ…まだ、姉上に何も返せてねェままでさァ。
土方の事も何も謝ってねェ、それにせめてあと少しっ」
「駄目よそーちゃん。我侭は駄目。
それに、私は充分楽しい思いをさせてもらったわ」
ふと、それを合図にするかのように風が強くなる。
ミツバさんはあたし達の方を真っ直ぐに見据えた。
「ありがとうそーちゃん。いつまでも、私の自慢の弟でいて。
……ありがとう先生。私の我侭を一日中聞いてくれて」
「ハッ、まだ一日たってねぇよ…」
少し皮肉を入れて言う銀八。ミツバは苦笑する。
「ありがとう結ちゃん。…そーちゃんと、十四郎さんを…お願いね?」
結は静かに頷く。
「それと最後に一つだけ我侭を言わせて?」
風が…
「十四郎さんに会ったら、言ってなかったから……。
伝えておいてほしいの」
また強くなって…
「私を愛してくれてありがとう」
ミツバさんを連れて、空のどこかへ行ってしまった。