恋連鎖 | ナノ


「あれ。いいの? 授業サボっちゃって。単位つかなくなんぞ」

「そんなことよりもアイツの事だ。訳を話せ」




深刻な空気が漂う中、あたしはちゃっかり国語資料室の扉の前で盗み聞きしていたりする。
いつもと声からして様子が違うトシに、どこか心配を憶えたからだ。

―――何か悪いことしてるみたい…。

扉に耳をつけていたあたしはそう考えるとハァっとため息をついて体育座りへと体勢を変える。




「あ、結さん?」

「はっはぇ!!?」




そんな葛藤をしている間に、いつの間にかミツバさんはあたしの目の前に立っていた。
突然のことで声を上げてしまい、慌てて口を両手で押さえる。
ミツバさんも少し苦笑していた。

「………あの」

―…死んでいる、なんて思えない。
けれども、彼女から出る儚さとそれを掛け合わせると納得する気もする。



「あの…総悟は…」

「そーちゃんなら教室に戻ったわ。結さんはいいの?」

「あ、ちょっと…サボっちゃおっかな? みたいな感じで…」



動揺してる。
これは誰がどう見ても動揺していると思われる…。

漫画で表現するなら、きっとあたしは今、汗がダラダラと流れているだろう。そんな感じでビクビクしているあたしを見て、ふとミツバさんはクスクスと静かに笑った。



「…?」

「本当、そーちゃんが言った通り面白い子だわ。」

「え、あの…」

「場所、変えましょうか」



彼女は国語資料室の文字を見てあたしの手を引くとその場を離れる。

―――銀八先生…とか、トシと何かあったのかな…?

けれどもそれは彼女のプライベートに突っ込む形になってしまうかもしれないと思ってあたしは黙ってただ引かれるままに彼女の後をついていった。





***








「じゃ、ここにしましょう。いい天気でよかったわ」

「あの……屋上、ですか?」



少し無邪気な振る舞いを見せるミツバさんは「私ここが好きだから」と答える。
そしてそのままあたしをじっと見つめて


「いろいろお話してもいい? どうやらあなたも私のことをちょっと知っちゃったみたいだから…」

と、何だか申し訳なさそうに言った。

「いいんですか? プライベートに首突っ込んじゃって」

「もう! 私はこの世にはない存在なんだからプライベートとかは関係ないのよ?
…それよりも、聞いてほしいの」

これ以上批判すると逆に彼女を追い詰めてしまいそうだったからあたしは黙って彼女の話を聞いた。



――

彼女は昔トシと付き合っていたらしい。
けれども自分が病気であることを知って、トシを傷つけないために自分から別れを切り出した。トシはそのこと知っていたみたいだったからその別れ話を承諾して、二人はそこで終わった。
けれどもミツバさんの方はやっぱり忘れることとかもできなくて…最期までトシの事を想っていた。
そして今、彼がどのような思いを抱いて生き続けているか、そして彼に対して感謝の気持ちを伝えるために蘇って来たそうな。



―――ってか、蘇るって…


またちょっと冷や汗を垂らす。




「子供みたいでしょ? 好きな人の未練を引きずって…わざわざもう一回この世に戻ってきちゃうなんて
まぁ実際、どうやってここに来たのかっていうのも分かってはいないのだけれどもね…」

ミツバさんはまた柔らかな笑みを浮かべて笑う。


でもあたしは…



「でも、それほどまでにトシの事を想ってるって事なんでしょう?
どんな形であれ、素晴らしい事ですよ」



と満面の笑みで言った。

……けれども心には、罪悪感が残っていて。
彼女の顔をまっすぐ見ることはできなかった。







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