「じゃ、ここにしましょう。いい天気でよかったわ」
「あの……屋上、ですか?」
少し無邪気な振る舞いを見せるミツバさんは「私ここが好きだから」と答える。
そしてそのままあたしをじっと見つめて
「いろいろお話してもいい? どうやらあなたも私のことをちょっと知っちゃったみたいだから…」
と、何だか申し訳なさそうに言った。
「いいんですか? プライベートに首突っ込んじゃって」
「もう! 私はこの世にはない存在なんだからプライベートとかは関係ないのよ?
…それよりも、聞いてほしいの」
これ以上批判すると逆に彼女を追い詰めてしまいそうだったからあたしは黙って彼女の話を聞いた。
――
彼女は昔トシと付き合っていたらしい。
けれども自分が病気であることを知って、トシを傷つけないために自分から別れを切り出した。トシはそのこと知っていたみたいだったからその別れ話を承諾して、二人はそこで終わった。
けれどもミツバさんの方はやっぱり忘れることとかもできなくて…最期までトシの事を想っていた。
そして今、彼がどのような思いを抱いて生き続けているか、そして彼に対して感謝の気持ちを伝えるために蘇って来たそうな。
―――ってか、蘇るって…
またちょっと冷や汗を垂らす。
「子供みたいでしょ? 好きな人の未練を引きずって…わざわざもう一回この世に戻ってきちゃうなんて
まぁ実際、どうやってここに来たのかっていうのも分かってはいないのだけれどもね…」
ミツバさんはまた柔らかな笑みを浮かべて笑う。
でもあたしは…
「でも、それほどまでにトシの事を想ってるって事なんでしょう?
どんな形であれ、素晴らしい事ですよ」
と満面の笑みで言った。
……けれども心には、罪悪感が残っていて。
彼女の顔をまっすぐ見ることはできなかった。