恋連鎖 | ナノ
「アイツに、アイツに何かされたアルか!?」
思ったよりも大きな声で焦ったように叫ぶ神楽ちゃんに驚いて、皆も一斉にあたし達の方に振り返る。
「どうかしたの?神楽ちゃん」
妙ちゃんも不思議そうに尋ねてくる。その後ろでは近藤さんが飛びついてきて、こっちを見ているのにもかかわらず平然とグーで受け答える貴女が素敵だとあたしは思います。
「ううん、何でも!」
と、あたしが必死に返事をすれば「そう」と笑って皆も何事もなく帰り道を進んで行った。あたしと神楽ちゃんも急いで皆の後について行けば、神楽ちゃんは少し沈んだ声で続けた。
「何で、分かったアルか」
「ん?」
「私に兄貴がいたこと。もしかして、アイツに会ったアルか?」
疑うような声色にちょっと怖いと感じつつも、「うん、今日助けてもらったんだ」と答えれば
「本当に…?」
と、今度は別の意味で疑うような声になった。不思議そうで、可愛らしい声だ。
「あの馬鹿兄貴が助けるなんて…ッハ!でも結は可愛いから…」
「可愛いなんてそんな。…お兄さんって何かあるの?(喧嘩すごかったけど)」
「あるも何も大アリネ!毎日喧嘩して帰って来ては私を散々罵倒してまたいなくなるアル!私を敬うという気持ちが全くないアル」
それは兄妹の立場なら当然なんじゃ…。
「それに」
神楽ちゃんは続けた。
「結みたいな可愛い子は取って食っちゃう奴ネ。結は、私が守るアル」
男の子が言うべき台詞を、アッサリと、なおかつ自分の物のように言う神楽ちゃん。
ほ、惚れぼれしちゃうよ…!
「そんな悪い人には見えなかったけどなー(怖かったけど)」
いちいちかっこの中身が本音を言ってしまっているのである。が、口には出さない。
神楽ちゃんはぐぬぬ、と唇をかみしめると
「それでも私はあんな兄貴に結を渡したくないネ」
と、意地を張るように言った。頼もしくて、それでいて子供みたいなところが可愛くて、フッと笑みを溢せば
「頼もしい!頼っちゃうね!」
と、彼女の肩に腕をぐっと回した。神楽ちゃんも喜んでくれたようで、きゃっきゃと笑いながらあたしに温もりを返してくる。
そんな風にしていれば「仲いいわねェ」なんて、いつのまにか妙ちゃんに笑われているものだから、思わず恥ずかしくなって苦笑してしまった。
神楽ちゃんがちょっとムスっとなってしまったけれども、それでも何だか、はずかしかったのだ。無邪気になるって難しい事なんだと思い知らされる。
それに、思いっきり先生の前ではしゃいでしまったようなもので。ああーもし先生がおしとやかな子が好きだったらどうしよう。いや、でも今までのあたしだって別におしとやかだったわけじゃないし…
もんもんもん
やっぱり、両思いかもしれないという気持ちが幾分か強くて、期待で胸がいっぱいに膨らむ。
そんなこんなで分かれ道に差し掛かった。
あたしは皆と違う方向だ。先生も、ここからはまた別方向に向かうらしい。
いい感じに散らばるせいか、ここで完全な解散となった。
今日は本当に色々あったし、皆でお花見をしたわけではなかったけれども、とっても楽しい一日で、有意義に過ごせたと思える。
満足げな表情を浮かべたあたしは、皆に対して大きく手を振ってそのまま家を後にした。