恋連鎖 | ナノ

「俺って結構自己中だから、良い方に解釈しちまってもいい?」

「…?」

「結ちゃんが忘れたくねェってんなら俺も忘れないし、結ちゃんはもしかしたら…なんて、都合良く解釈しちまうんだけど」
「!!」


――ちょっと待って、それ…って


微笑を浮かべる先生の頬はお酒のせいか大分赤くて、熱情的で、近くも遠くもないお互いの距離を再度意識すると心拍数は上昇する一方。

先生が言っているのは、ほぼ確実に、あたしがアイスを溢す前に先生と話していた内容の事だ。


先生、逆にそれは、あたしも都合よく解釈してしまってもいい、ということなんでしょうか。ドキドキはエンドレスに続くのである。


視線だけふと向ければ、目が合った。沈黙はさほど長い時間あったわけではないのに、今は一瞬一瞬が貴重でとても長くて、息苦しいのだけれども妙に心地が良い。
今は、誰も入ってきてほしくない。

「―――いいですよ。私も、都合良くとらせていただきます」
「――!」
「私、先生の事…」

言うんだ、今こそ、今日あたしがここにいる意味をもう一回確認して、息を吸ってみる。

「先生の事……」

ためればためるだけ恥ずかしくなる。言え、言うんだあたし…!

「先生、の、事………」

あ、あれぇ……?

「の、こ、と…………」

表情が引き攣ってついにその先の言葉は口に出なかった。もう諦めたあたしは口を閉じて、俯いてしまう。というか、ここまで言ってくれれば気付いてくれたのではないのだろうか。先生、私はもう此の先へ進む事は不可能です。

はぁ…と、ため息をついていたら、頭にあったかい温もりを感じた。

思わず見上げると、さっきよりも近くに先生がいる。


「先生の事、何?」
「……!」

この人、さっきあたし不可能だって言ったじゃないですか!(言ってない)

「―――すっげー嬉しい」
「えっと………」

やっぱり気付かれていると分かり、今度は視線をそらさずにいられなくなった。この人はきっと人を弄ぶのが好きなんだ。うわああああたし何もできない…!

「……えっと、」

言葉に詰まったので、この際取り繕うことを止めようと決意した。

今度こそ真っ正面に向かい合う二人、邪魔はいない、最高の演出、高ぶった気持ち、どれにおいても最高のコンディションで逃すわけにもいかなかった。



「両思い!ですね……!」



トキメキよりも嬉しさで満面の笑みを向けると、共鳴するように風がザァッと音を立てた。

思ったよりも小さな声だったから、先生聞こえただろうか?


しばらくした先生の微笑を見て、心が落ち着いた。今日の目的は、果たせられたのだ。途端に恥ずかしくなって顔を俯かせたら、先生から紙コップに入ったオレンジジュースを貰う。

そのあとは皆が帰ってくるまで、二人だけでまったり過ごしたのであった。












あれ、結局有耶無耶じゃね?



なんて気づくこと時既に遅し。
あっという間に夕焼け空が桜を染め上げる時間になっていると、あたし達は自然と解散の流れになっていた。
最終的に各々好きな風に過ごしていたため、集まったのは最初が最後であったというなんとも奇妙な花見であったが、あたしとしてはおおいに満足であった。

これでまた月曜日からの学校でも大丈夫だ。

「それじゃあお開きにしましょう!今日はそれぞれ楽しんでいたようで良かったわ」

妙ちゃんはほとんど近藤さんの相手をしてたんだけどね。

「俺は結と全然話せなくてつまんなかったぜー」

「沖田君…うわっ」

突然抱き着かれられ、「離れろォオオオオオオオ!!!」という神楽ちゃんの雄叫びと共に沖田君はぐいぐいと引っ張られるのだがびくともしない。むしろ支えになっているあたしの首が引っ張られて、苦…し、い……………

「沖田くん、結ちゃん苦しがってるから」

危機一髪。
しかしその声は先生のもので、ドキンと心臓が跳ねた。

結局有耶無耶じゃないか、と気付いたばかりのせいだろう。またまともに顔を見る事がかなわなくなってしまった。
けれども総悟君は力を緩めただけで離れようとはしなくて

「別に先生だからって結を独占しようなんざ俺が許しませんぜー」

またぎゅーっと後ろから抱きしめられる。

ちょ、沖田君!? 耳元に彼の息がかかってドキドキドキと心拍数が上昇していく。行けない空気にそこだけ染まっていくようで、そんな中沖田君が「結ー」と、気だるくも甘い声を出すから、キュンと胸が締めつけられる。
なんだか危ない空気になっていく中、ふと後ろの熱が無くなった。

「オイ、こいつどこで飲んだんだ?」

助けてくれたのは土方君だった。

「え、飲んだって…?」
「明らかに酒臭ェじゃねーか! 総悟誰に飲まされたんだ?全く」

きっとその容姿だから、綺麗なお姉様方にでも進められたんじゃないんでしょうか…。
ハハハ、と苦笑すれば「ようやく離れたネ」とあきれ顔で呟く神楽ちゃんが隣に立った。

「全然結とお話しできなかったアル…。結楽しめたアルか?」

見上げてそんなこと聞くものだから、可愛くて微笑ましくて。
確かに楽しかったし色んな意味でドキドキした一日だったのだけれども……あれ


あれ


「ねぇ神楽ちゃん」
「何アルか」
「神楽ちゃんって、お兄さんいたりする?」

そう尋ねたら彼女はカッと目を見開いてその場に立ち尽くしてしまった。
進む一向に置いて行かれそうになる神楽ちゃんの肩を揺さぶったら、ハッと目を覚ましたように跳ねて、あたしに言った。




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