恋連鎖 | ナノ

「大丈夫?」

彼はゆっくりとあたしの方へ歩み寄る。あたしが思わず後ずさりをしたもんだから、彼は一瞬止まると「ははっ」とおかしく笑う。

「ちょっと刺激が強すぎたかな? でも気を付けなよ、こういう人気の無いところに女の子一人は危険だから。綺麗な花には毒があるって言うじゃないか。あれ、違う?」

いや、その言葉は少しだけ正解。確かに綺麗な景色につられてまんまと毒にかかるところでしたよ本当。

「とりあえず送ってあげるよ。こいつらの残党がどこに残ってるか分からないしね」

またニコッと首をかしげて手を差し伸べる。
怖かったけれど…助けてくれた人を疑うのもどうかと思って、そのまま手を重ねた。
満足そうに口角を上げた彼につられて、そのまま小川沿いを歩く。

……この後ろ姿、いや、髪の毛か。


「……」
「そういえば君、銀魂高校の子?」
「え」

なんで知って…

「この学校にいつもこの時期くらいによく来るんだよね、銀魂高校の生徒」
「へぇ…」

神楽ちゃん達は去年もこうして楽しんでいたのか。むむ、羨ましい……。

「貴方もここら辺の学校に通ってるんですか?」
「んー……そうだね、どう答えようか」
「?」

深みのある返事をする人だ。ずっと笑顔を浮かべていて怖くて何を考えているか分からなかったけれど、正直普通に目を開いている今も何を考えているか分からなくて怖い。

足を止めてくるっと彼はあたしの方へ振り返った。手は繋がれたままだ。

「俺ね、銀魂高校に転入しようか考えてたんだよね」
「はい!?」
「決めた。君が銀魂高校に来たんなら俺も通うよ。早速手続きしなきゃね。どこのクラス?もしかしてZ組だったりする?」

Z組なんて、普通じゃ出てこないアルファベットだ。
なのに存在を知っているということは、転校してくる気があったのはどうやら本当のようだ。

いやいや、でも、気分で転校できるものなのか…?(……あれ、あたしも気分で転校してきたようなものじゃないかい?)……――――まあいっか。

彼のおうちの都合も知らないし、彼自身でうまく生きて行っているのであればいいのだろう。


「分かった。じゃあ俺もそこにする」

可愛らしい笑顔を浮かべて彼はそう言った。…あぁ、また美形ですか。



そんな会話をしていくうちに、皆がいるところまでたどり着いた。
此処までくれば、流石に人もいるし大丈夫だろう。そういうことで彼には感謝しないと。
それに、小川沿いの桜という綺麗な物も見せてもらったのだから。


「ありがとうございました、ここで大丈夫です」
「そ。じゃあ俺は戻るよ」
「本当にありがとうございます。……えっと」

やっぱりお礼とか何か必要かな、でもそんな大層な物今持ってないし…

「い、いつかお礼は…」
「もしかして、何でもしてくれるの?」

え?

一層嬉しそうな声に顔を上げれば、花を散らせたような綺麗な笑顔は、倒れた人々の中立っていた時と同じなのに何倍も幸せそうな笑顔だった。
嫌な予感として、背筋が凍る。

「いやあの、何でもは…」
「でもお礼と言ったら“何でもしますからー”っていうのが鉄則じゃないのかい?この国ではそうともいかないのかな…それとも俺の漫画の読み過ぎか」
「……国?」

これまた、“あの子”と共通点の多い事を言うものだこの人は。

「俺、中国から留学してきたんだよね。転校はもう何度か経験してるけど」

そう、神楽ちゃんにそっくりだこの人は。髪の毛も、目の色も…

「とりあえずお礼楽しみにしてるよ。あ、じゃあ俺たくさん食うからご飯いっぱい作ってよ」
「ご飯ですか」
「うん、じゃあ学校でね。結」

「え」


名前を読んだ後、彼はすぐに姿を消した。軽い身のこなしを披露して、さっきまでそこに誰もいなかったかのように。


「………」


不思議な出会いは、こうして幕を閉じた。

あとで神楽ちゃんに聞いてみよう。あんなに接点があって容姿までも似ているだなんて、そうそういないのだから。
そう思って、改めて一人になって皆の姿を探した。

…まぁ、あたしがお手洗いに行くまでも皆別々の場所だったから一か所に居るとは限らないと思うけれど…。

―――けれど、

けれど、銀八先生なら一人でもあそこにいると思って、心が自然と弾んだ。もしかしたら今戻ったらチャンスかも、そんな淡い期待を持って探す。



「……」



あたり一面の桃色の景色の中から、銀色を探しだすのは至って簡単なことだった。よく合うのだ、溶け込んでいるのだ。それでいて桜の色に埋もれることはなく、存在感がハッキリと視界に現れた。
もしかしたらこれは、あたしだけが分かる事なのかもしれないけれど。

歩く度に積み重なった桜の花びらが音を立てる。人々のはしゃぐ声も勿論大きいのだけれども、やけにそれが鳴り響いているようにあたしは感じてしまって、先生に一歩一歩近づくだけで心拍数があがってゆく。

案の定、周りには一緒に来た神楽ちゃんや沖田君の姿は見当たらなくて、先生は一人でお酒を飲んでいた。
大分暖かくなってきたのか、まくった袖から覗く腕に色気を感じてしまったあたしは、それ以上進む事が容易でなくなる。
ああもう、どうしてそんなにかっこいいんですか、もう…


「お」
「……」

「遅かったじゃねェか。何かあったか?」

「いえ、ちょっとからまれてたんですけれど、ある人が助けてくださって…」
「からまれただァ!!? 誰かが来てくれなかったらどうしてたんだよ!」
「ごっごめんなさい!」

血相を変えて先生は言う。確かに無防備すぎたのはあたしだ。先生に叱られる事は正しい。

「こんなことなら俺がついていきゃよかったな」
「いえ……」

優しいんだ。やっぱり、この人は。
自分の事じゃないのにこんなに慌ててくれて、きっとあたしじゃなくて他の女の子が同じ事をしてしまっても、先生は一緒になって心配してくれるのだろう。
そう考えると少しだけ気持ちが落胆してしまう自分がいるが、そんなところも好きだから、それでいいのだ。

「怪我はしてねェか?」

覗きこまれてビクッと肩が跳ねる。
いくらなんでも近くて、返事が遅くなり、先生が「もしかして」とまた表情を変えた。


「違います!近いです!!」


「…え?」
「あ」

とっさの言葉に顔が赤くなっていくのを感じる。
思わず本音が出てしまった。勘付かれてしまったかもしれない。この場に居る事がとても心苦しくなってきた。

「…………なぁ」

先生は一瞬身を引いて、先ほどとはまた違う声のトーンであたしに問いかけた。



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