恋連鎖 | ナノ



「嬢ちゃん一人ー?」

「ぇ……」

景色に見とれているところ、声がした方に振り返ってみれば、柄の悪そうな人たちがズラっと後ろに立っていた。
相当な人数だ。もしかしてこの場所に人がいないのは…

「ここ俺たちが今占拠中なんだよねー」
「いい景色だろ?一緒に見たいんだったら俺達に付き合いなって」
「いい事しようぜ」

静かに方に腕をまわされて、身動きが取れなくなってしまった。
この人たち、もしかしたら他の女の人にもこうした口車に乗せて連れてしまっているのかもしれない。
やだ、

「怖い…」

「んんー?いいから来いって。大人しくしてりゃ悪いようにはしねェんだから」

逃げ出そうと思っても、相手はざっと20人以上いた。それに全員体格も大きくて背も高くて、あたしを連れて行こうとする力は信じられないほど強い。
抵抗したくてもできなかった。やだ、絶対に嫌なのに…!


ふりほどこうと暴れた、けれどもそれが仇になったようで、怒った男性はあたしを無理矢理引き寄せ担ぎあげる。
ひょいっと軽々しくする様に、もう抵抗は無駄なんだと確信した。

――誰かっ…


先生――





「ぐはっ」

「!」

身体が宙に浮いた。
あたしを担いでいた下の男の人が一瞬にして崩れ去ったのだ。何が起きたのか全然わからないけれども、とりあえず今は地面に身体を打ちつける事が怖くてギュッと目をつむった。
スローモーションのように長く感じられた。大分身長が高かったおかげなのだろうか、宙に浮いている感覚をこんなにリアルに感じ取ったのは初めてだ。
あー怖い、バンジージャンプはこれをもっと長い時間感じるのかぁ…嫌だなぁやりたくないなぁ…


「っと、危ない」
「え」
「俺につかまっててね」

パチリと目が合った。その刹那また空に浮かんだような感覚に陥った。
あたし助けた誰かが、大きくジャンプする。しっかりと固定されたその人の腕と、声から、男の人である事は理解できた。
思わず怖くてしがみつく。ぎゅっとつかんだそれは黒くて、まだ新しいみたいだ。学ラン…?

ざわっと先ほどまであたしを連れて行こうとしていた男性達が騒ぐ。信じられないものを見るように怯えた瞳であたしとその人を見る。

一体……


ガサッと草陰に降りた。

ゆっくりとあたしを下ろした男の人は、あたしの頭の上に手を置くと声だけ
「ここでじっとしててよ」
それだけ告げてすぐにあの集団の方へ駆けて行ってしまった。


「え」

待って、一人で…!? だってざっと20人はいたのに。
周りの人たちに比べれば、“あの子”に似た髪の毛の色の真黒な長い学ランに『天上天下唯我独尊』の文字を背にした彼は一周りだけ小さい。
あんな小柄なのに大丈夫だろうか。けれどもあたしを支えていた腕はがっちりと力強かった。

大丈夫だろうか、と草陰で言われたとおりに身を隠しながら、後はじっと待つだけだった。
変に顔をだして居場所がバレてしまったら元も子もないだろうからきちんと座りこんで姿を完全に隠す。

次から、太いうめき声と、バキッとか、メリッといった嫌な音まで耳に響く。
ドクドクと脈打つ中、それはしん…とふいに静まった。


「…?……??」


恐る恐る草陰から顔を出す。


そこにあったのは、大勢の倒れた男の人たちと…その中に一人立つ、かすり傷一つ無い少年だった。


彼は振り返り、大きな瞳を一瞬向けたかと思うとニッコリ笑顔を浮かべた。

桜の光景に似合わない彼の行動に、あたしは逆に恐怖心を憶えた。




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