恋連鎖 | ナノ



アイスを食べるのを止めて思わず顔を俯ける。
先生はこれまたおいしそうに桜のアイスを食べながら、口を開いた。

「さっき何か言いかけてただろ?」

先生は流石先生だ。ちゃんと生徒の事気にかけてくれているんだ。

「……」

恥ずかしくなって口をつぐんでしまった。手の中にあるアイスは段々とあたしの手を介して熱を帯びていく。

「……えっと」

けれどいつまでも黙っていたら、またチャンスを逃してしまう。きちんと先生には一昨日の件を確認しないといけないよ。
信じられない事なのだから。まだ夢だと思っているから。

あの1秒が、本当に写真みたいにパッと思い出せてしまう事が不気味なのだ。少しだけ綺麗な校舎で、桜の花びらがいっぱいで、先生の香りに包まれて


「一昨日の……」
「!」
「………渡り廊下の……」

それ以上は、心臓が持ちそうにないので言葉にしなかったけれど、僅かな先生の反応から大体判ってくれた、と判断してそれ以降黙った。
先生は1,2度頬を掻いて、こちらも…恥ずかしそうにしているのだろうか、「んー」と唸ってあたしの方からは顔をそむけたようだ。

一気に複雑な空気になる。
こういう時こそ、乱入者が欲しいと言うのに皆また自分の都合でどっか行ってしまっている。さっちゃんさん帰ってくればいいのに!!


「……あの、さ」
「はい」
「…悪かった」
「……謝られる事じゃ、ないと、思います、はい」
「んーでも一応さ…」
「そうですね、教師と、生徒、ですね」
「うっ」
「それも出会ってまだ1週間の日数も経ってませんね……」

でもあたしは好きで、先生のことを誰よりも好きになっちゃって、大変なんですよ気付いてくれたらいいのになーと思いつつ、この関係を維持して居たいという我儘だって生まれてしまう。
そんなもんなのだ女の子なんて。

「…嫌だったんなら、無責任だけどよ…忘れてくれ」
「………」

ここであたしは、

「―――――忘れません」

小さな小さな声で、少しだけ先生に反論してやったのだ。ささやかな仕返し。いつもドキドキさせる先生への仕返しだ。


え、と聞き返そうとした先生。しかし次の瞬間、ぽとっと音がして「あ」と先生と声が重なった。

「アイスこぼれてんぞ」
「うわあああ生地が生地だから拭くだけじゃ取れない…!」
「え、まじでか、じゃあ…あ、そうだ。向こうに便所あったから行って来い」
「はい! あー……あ、神楽ちゃん!このアイスあげるー!」

「むお!?食べかけアルか!?」
「いらなかっ…」「是非頂戴するネ」

即答だった事に疑問を抱きつつ、あたしは先生に教えられた通りお手洗いへ向かった。
あーアイスの事すっかり忘れていたよ。







すっかり人気の少ないところまで走ってきてしまった。
お手洗いを発見すれば急いで向かう。右の太ももにこぼれた。頑張って足を上げて水で流せば、色が濃くなったけれどもこれでひとまず安心だろう。
ついでに用を済ませておいて、次に皆の所へ戻るだけだった。

お手洗いを出ると、今来たところと反対の方に、全く人のいない桜道が見えた。


「…こんなきれいなところあったんだ…」

個人的には、小川も丁度良く流れ、高い建物もないおかげか空と桜とのコントラストが美しくてさっきの場所よりも気に入ってしまった。

ほぉーとため息をついた。
その時だった。



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