恋連鎖 | ナノ
そんなこんなで、人の賑わう銀大広場に到着。
各々持ってきたレジャーシートまたはブルーシートを広げれば、それなりの広さになって15人が入るのには余裕なものになった。
座るところなど特に決まってはいないが、すぐにみんな場所についた。
あたしの隣には神楽ちゃんと九ちゃんで、目の前はなんと…まぁ、先生なのだが、先生の隣では必死に彼の腕にしがみつくさっちゃんさんの姿があった。いつも通りなんだけど…あたしはさりげなく、そのさっちゃんさんの行動が羨ましい。
「……」
「どうしたんだい結ちゃん」
「え」
「早く結のお弁当食べたいアル!勿体ぶらない方が身のためアルヨ」
一体何が待っていると言うのだね神楽ちゃん。
仕方が無いのでお弁当箱を出す。
隣でキラキラした瞳を向けて待ち構えている神楽ちゃんを見ていると、箱を開けるのにもなんだか手間取ってしまう。
けれど、期待は裏切らないつもりだ。今日は、人数もいるし…それに、先生もいるし、ちょっといつもより豪勢に、そして味見を念入りにして作ってきたのだから自信がある。
パカっと開いて、真ん中の方に並べる。
「おぉぉぉ!!」と神楽ちゃんから大きな歓喜の声が上がれば、皆もお弁当に注目してくれて嬉恥ずかしい。
「さっすが結アル!」
「すごいですね結さん、僕も貰っていいですか?」
「どーぞどーぞ、皆好きに持って行ってねー」
わーい大好評で大満足。
次々に色んな箸があたしのお弁当箱へ走っていく姿を見れば心が満たされる。頑張ってきた甲斐があったってもんだ。
そんな嬉しさをフッと抑えて、目の前に座る銀八先生を、本にばれないように人の間から見つめる。
先生は箸を持った。どこにいく、そう今度は箸の先を目で追っていったら、あたしのお弁当箱の前まで来た。玉子焼き!? 玉子焼きをねらってるんですか! よーし、ちょっとお弁当箱ずらしますから、どうぞどうぞ食べて下さい! 先生が甘いもの好きと言うから、すっごく甘めに作ってきたのです。
あともう少し、もう少しで彼の箸に…!
「そうはさせないアルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
ずさぁぁぁあっと音を立てて、1秒、2秒、3秒とコマごとに神楽ちゃんは華麗に空中で一回転を決めて、あたしのお弁当箱の中身を全く溢さずに着地をしたのだ。
勿論、中身は全て彼女の手の中だから、残念な事に先生の箸は玉子焼きをかすりもしなかった。
「ふざけんなチャイナァ!!」
「おいおいどーすんだ神楽。今、黄色くて俺を呼んでいる甘美な香りを漂わせた玉子焼きに手を付けられるところだったんだぜ。まだ何も食ってねェんだけど、ねぇ」
「うるさい うるさい!結のお弁当は私のモノって、10年前くらいに決まっている事ネ。誰が何と言おうとこれは私のモノアル」
「いや甘ェですねィ。俺は15年前からその弁当箱予約しててねェ…」
え、
「何言ってんの沖田君、俺なんか20年前から予約済みだから」
「いや先生、それ私生きてないです」
―――っは!ついナチュラルに突っ込みを…!!
そうこう騒いでいるうちに、妙ちゃんや九ちゃん、それにあのさっちゃんさんまでもがどっか行ってしまったのか姿は見えず、ほとんど真正面に銀八先生がいる事に気付く。
土方君もザキ追いかけに行っちゃったし、妙ちゃんがいないから当然のように近藤さんもここにはいなくて、双子の阿音百音ちゃんは向こうのおじさま方の中に紛れてやんちゃしてるし、実質ブルーシートにいるのは引き算すれば……
「……」
ぽかん、と呆気にとられちゃって思考が停止する。
先生って桜と似合うんですねぇ……
「ったく神楽ったらしょうがねェよな」
「は、はいそうですね…」
緊張なんてしないんだ、って思っても、駆け巡るのはつい一昨日の……
うっわあああ……もう、はずかしいです、でも消したくはないです。素敵な思い出です。
……そうだ、あたしが今日ここに来て一番やるべきことは…
「―――先生」
「?」
イチゴ牛乳片手に先生は改めてあたしを見た。
ドキンと心臓が高鳴り、今度は逆に、目を離せなくなった。
絶妙な距離感と、桜の花びらという最高の背景が演出をしてくれて…
神楽ちゃんと沖田君は向こうで激闘を繰り広げている最中だ。今しか多分チャンスは無いだろう。
「―――あのっ」
「あらぁ?結ちゃんと先生しかいないの?」
「わああああああ委員長もいるうううう助けてぇぇぇぇぇ」
なんでこう…あたしは運が良いのだか悪いのだかよく分からなくなってくるよ。
「だからあの黒人は誰だ!! そっち片づけてから帰ってこい山崎コラ!」
「そんな事よりもお妙さん!これでいいんでしょうか!?」
「あー私それいらないから。テメェの触ったもん食えるかっての」
「先生、先生には私の食べかけ、差し上げますからね!あ、でも食べかけと言っても9割方残って(強制終了)」
「姉御ぉ!ドSが私のお弁当箱狙ってくるネ。黙らせてヨ」
多方向から参加者は帰ってくる帰ってくる。
妙ちゃん九ちゃんさっちゃんさんに新八君は、どこかの出店でアイスクリームを買ってきたらしい。全員分、4人の奢りだ、と言った。
妙ちゃんから受け取れば、綺麗な桃色をしていた。けれども香りはイチゴ…じゃない、それにツブツブと濃いピンクが時折姿を見せる。
「何味なの?」
先生との事はまた有耶無耶になってしまったが、妙ちゃん達が買ってきてくれた事に感謝したら残念さはなくなった。また騒がしくて居心地のいい空間に戻る。
「桜味よ、珍しいでしょ」
「じゃあこのピンクは…」
「本物の桜の花びらが入ってるんですって。ちゃんと洗ってるものだから安心して」
「ははっ大丈夫だよー。でも花びらって食べれるんだね…」
食用のとかちゃんとあるのだろうか。ほら、食用花ってあるから…。
一口、含んでみれば一瞬にしてほろ甘いバニラの味と、それに加えて桜餅のような独特の味が広がった。
新しい組み合わせに思わず心が奪われる。
おいしいおいしい。
「よいしょっと。 よ。」
「!!?」
次の瞬間、銀八先生はなんの前触れもなくあたしの隣に腰掛けてきた。