恋連鎖 | ナノ




友達と出かける、というのは初めてになる。
予定よりも30分早めに準備を済ませて、暇を持て余していた。

―――あぁぁぁあああそれよりもうわああああああ

なぜこんなに早く終わってしまったのかというのは、至極単純なことである。
青春らしく、このイベントに好きな人が来るからだ。だからいつもよりも少し髪型を可愛くしてみたし、春らしい柔らかな色で着飾った服を雑誌などで研究し、合わせてみた。それだけでなくメイクもいつもと少し変えてみたし、服のほこりなど大丈夫か何度もチェックにチェックを重ねる。

どきどきどきどき

心臓が止まりません。


「……うし」

腕時計を確認して、出発予定時間10分前になって、家を出た。

パタリと扉を閉めれば、もう一度深くため息をつく。


―――なんでこんなに緊張してんの。昨日だって先生見たじゃん。いや、でも話しかけることも近づく事もなるべく避けてたんだっけ…うわーどうしよう、変に思われてなきゃいいけど…うわああああああああ

「うがあああああああ」

思わず声をあげてしまったため、はっとなって周りを見渡す。
よし、大丈夫誰もいない!隣の部屋の人さえ聞いてなければ大丈夫だ。


…腹を決めよう。

なんて、女子らしくない言葉を思い浮かべて足を踏み出した。忘れ物はさすがにない。
お弁当もたくさん作ったし、頼まれていたブルーシートも購入済みで今はあたしの鞄の中に折りたたまれて入っている。

エレベーターに乗りこむと、段々と、お弁当を食べた時の神楽ちゃんの顔が待ち遠しくなってくる。

そうなれば先ほどの緊張はすっかりほどけて、楽しみに変わっていく。

場所は銀魂高校と反対にある銀魂大学、略して銀大の敷地内である。大学は常に解放して居るため誰でも立ち入り自由だから、きっと今日もたくさんの人たちが賑わっている事であろう。

ちなみに、銀魂大学だからといって銀魂高校は附属校であると言うわけではない。紛らわしいけれど、ただ名前が一緒なだけで深い意味はないということだ。
しかし、設立者は一緒だし、進学率も銀魂高校が一番高い事で有名だから、ほとんど附属校と言ってもいいらしい。なぜ設立者は附属校としなかったのかが、謎に思った。

ちょうどあたしのマンションを挟んで等距離にある銀魂高校と銀大だが、銀大方面に出向いた事はほとんどない。
だからなんだか新鮮な気分だ。


待ち合わせ場所は銀大駅前の公園広場だった。
案の定、まだ誰も来ていなくて、また緊張が蘇ってきた。

…まぁ、緊張、といっても、これは嬉しさや楽しさと言ったプラスの感情による気持ちなのかもしれない。ドキドキで心臓が締め付けられる感じ、けれどもちっとも苦しくない。そういう経験あるある。


「はやく来すぎちゃったなぁ…」


どうやら、自分の腕時計は10分ほど早く指示していたらしい。それに気付いて時計の針を直す。
9時半集合の予定なのに、今はまだ9時10分だった。多分人が来るにしてもあと5分は待たなくてはいけない。

仕方がないから近くのベンチに腰かけた。
いい感じに春の陽気が漂い、花の香りを感じると、自然と表情が和らいだ。

これなら、5分間なんてあっという間かもしれない。


「お、結」

「!」

顔を上げたら初めて見る私服姿の沖田君と土方君がいた。

モデルさんだ、モデルさんがいる。



「……初めまして」
「「なんでだよ」」



いやいや、だって学校で会うのとはまた違って…。本当に様になるのだ。そこにいるだけで後ろの花もかすんじゃうくらい二人には華があるというのかな…。あれ、これ上手い?あ、上手くない?

一人で座ってるわけにもいかないからゆっくりと立ち上がった。

「そういえば今日何人くらい来るんだっけ?」

「あー…どうでしたっけ土方さん」
「志村姉弟と、チャイナ娘と、近藤さんに山崎も来るし…まぁざっと15人くらいか?」
「なるほど」

参加人数の多い…。きっとこのクラスは行事に力を入れるタイプだと思うな。
いい事だ。


「結の他には誰もまだ来てないのかィ?」
「うん。一番乗り」
「じゃあ結の私服姿を見たのは俺が初めてってことか」
「うん。……うん?」

沖田君が得意げに言う。隣の土方君に「アンタよりも先に見つけやしたからね」と言っていたら、土方君は「うるせェ」と静かにキレた。

あれ、なんだか……恥ずかしい。

「可愛いですぜ結」

そんな言葉はさらに反則で、やっぱり嬉しいもので、ぼっと顔が熱くなってしまい上手く返事が出来なかった。
心が揺らぐ。ううう顔が良いだなんて、ずるいずるいずるい!


「俺を無視して話進めんな」
「いやいや、むしろなんでアンタがまだここに居るんでさァ。ここは空気読んで俺と結の二人で抜け出してデートって流れでしょう」
「お前…」

沖田君、花見しに来たんじゃなかったっけ?


二人が言い合いを始めればあたしの立場はまたなくなるわけで、そうこうしているうちに時間は過ぎて人も集まり始めた。
皆の私服姿がいちいち可愛かったりかっこよかったりで、場違いな感じがしてくる。
いやいやでも、せっかく沖田君は「可愛い」って言ってくれたから…自信を、持とう。

そう考えるとまた恥ずかしくなるけれど、ここにいていいんだ、という安心感は強まった。


「みんな集まったみたいね」

妙ちゃんがざっと皆を見渡して呟く。しかし、

「えっと、先生が…来てないんだけど」

怪しく思われないように、気持ちが気付かれないように、なるべく平常心を持って妙ちゃんに言った。

「本当だわ」と呆れたように言う妙ちゃん。携帯を取り出して連絡するのかと思ったら、

「遅れたー」

と、声がして皆と一斉に振り向く。


私服じゃないんかい!!


衝撃を憶えたが、いつも通りの先生らしい先生を見て安心する自分がどこかにいた。
ようやく全員そろって満足顔の妙ちゃんが声をかける。
一行は銀大へ出発したのであった。


―――……妙ちゃんが携帯を取り出した、ということは、銀八先生の連絡先、知ってるんだ。
まあ今回の進行役でもあるし、クラスも変わってなさそうだし…付き合いは名がそうだし、当り前か。

…妙な疎外感と、羨望を持ち、ちらりと少し距離の遠い先生を見て、ふと思う。

あたしも、連絡先知りたい。後で聞いてみようかな……そうすれば、話しかけられるチャンスにも…って、それじゃあなんだか下心丸出し。いや、あんな事(=ちゅー)しちゃったんなら脈ありなんじゃないんだろうか。でもでもでも、図々しいことなんて…!

ブンブンブンブン

「結、何頭振ってるんでさァ」

シュー…

「あ、煙でた」

考えがまとまらず、脳内は爆発現象を起こした。





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