恋連鎖 | ナノ

「あ…」

『ここは結さんの部屋じゃないですか。彼女今日休みですよね。というか先生は何故ここにいるんですか?』

「あ、いや…だな、きょ、今日配るプリントを渡しに来たんだよ、う、うん」

落ち着け、落ち着くんだ俺。大丈夫だ、なんとかごまかせる。ああ教師で良かった、と思うと同時に、何で教師でこんなところに居るんだろうかと自分の職業を少し恨む。
というかお前はなんでここにいるんだ。学校はどうした、あ?お前も不良の仲間入りか。

「お、お前はなんでここにいるんだ…?」

『実はお弁当を忘れてしまったんで取りに返ってきたんです』
「あ、もう昼休みか…」
『先生、午後の授業に遅れないようにして下さいね』
「おう、気づかいありがとうな」

いやいやそうじゃねェだろ。第一な、今気付いたんだけどな…


結ちゃんちの鍵、持ってないから閉められないんだよね。今から大家さんの所に行って鍵借りて閉めようとしてるんだけどね。
身動きとれねェぞ……。

嫌な冷や汗が落ちる。このままコイツにもしも、もしもバレたりなんかしたら面倒な事になるのは間違いない。というか俺の首が跳ねられる。
まあそんな外道な奴じゃねェだろうとは思うんだけどな…。もしもを想定するのが、大人な対応というものだ。あれ、何か違うか?

奴が家に入るのを見計らって、家に入った瞬間にダッシュで大家の元へ行く。
おしこれだ。完璧だ。

エリザベスが扉に手をかけた瞬間に、ジリっと走る体制を構える。

そうしたら奴は『ああそうだ』とプラカードだけこちらに向けた。


『大丈夫ですよ、黙ってますんで』


「はあああ!!?」

『鍵取りに行きたいのなら行って下さい。大丈夫です、黙ってますから』

「いやいやいやいや、別に俺やましい事してねェしィイイ?なんでそんな、俺が悪い事したみたいになってんの?」

『何言ってるんですか。人気者の結さんの家に入り込んだという事だけでクラスメートにばれたら先生……』


奴はプラカードを裏返した。


殺されますよ



そうして顔もこちらに向けた。

おい…待て、なんだその殺気は。何でこっち向くの。何でそういう厳つい言葉でこっち見るの。そのポーカーフェイスがやけに不安になるんだよ。
でも、そんな威圧感に対して反論する気が失せてしまった俺は、とりあえず「おう…じゃあ頼んだわ」とだけ呟いて走った。

視線が背中を刺すがそんなのは気にしねェェ!!とりあえず逃げろっ、そうしてりゃあ多分アイツは何もしてこねェ。
本能がそう訴えていた。

「おいババアアアア!!早く鍵くれ鍵っ!!」
「なんだね騒々しい。大体アンタ誰だい」
「いいから、園江って子の部屋の鍵。閉めなきゃ俺帰れねェから」
「怪しい人間にあの娘の部屋の鍵は渡せん」


そうして大家はピシャンと受付の窓を閉めた。


しばらくの沈黙の後

「ババアアアコノヤロオオオオオオ!!!」

と、俺は空しく叫んだ。






―――――……




『マダオ』

「おっしゃる通りです…」


その後、忘れ物を取ったエリザベスが下に降りてきて俺の情けない姿を見れば、全てを察したようで。このマンションの住人という特権から奴は結ちゃんの部屋の鍵を受け取って鍵をかけてくれた。
ガチャリという音が響く。それと同時に俺の心臓は安堵を取り戻した。


「ま、お前がいてくれて助かったわ」
『どうも』
「……何か怒ってる?」
『別に』

クルクルと裏返り続けるプラカード。何も書いている様子がないのに言葉が次々と足されていくそれに、未だ謎が深まる一方だ。
いや、でもきっと突っ込んだら負けなのだろう。それを察して、俺は視線だけそちらに向けて口を閉ざした。

さてどうしようか。

コイツと会話なんてした事ねェぞ。あの電波なら勝手に一人でしゃべっていられるからいいだろうけど、俺はそんな順応良くできてないんだ。だから誰かこの空気をどうにかしてくれエエエエ。


と思ったところで、いつの間にか学校に着いていた。


『ではこれで』

「ん、おお……」

エリザベスは走って行ってしまった。昼休みもあと半分くらいだ。
そうだな、俺も授業のために準備しておかねーといけねェし………。

校舎に入る。
まだ6月にも入っていないというのに熱のある空気が、日の差さない此処でひんやりと気温が下がって少しだけ気分が軽くなった。
そのまま職員室に向かう途中、保健室前で高杉と偶然鉢合わせた。


「銀八、理事長が呼んでたぞ」

「あ?」


また何でだよ。




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