恋連鎖 | ナノ


お粥を全部食べさせてもらった後で、銀ちゃんは「で、その格好どうにかならねーの?」と聞いてくる。視線はこっちに向いてない…。耳が赤い。

「……頭痛くて服がよくわかんなかった…です」

本当はちょっとだけ嘘だけど。銀ちゃんがこれで洋服とか選んでくれたら嬉しいかも。あ、やっぱり服見られるのは恥ずかしい。
そしたら銀ちゃんはぎゅーっとあたしを抱きしめた。

…あれ、何故?


「俺でよかったな」
「何で?」

「もし普通に宅配便の兄ちゃんだったらどうなってたか…わかんねェだろ。下、下着だけだろ」

そう言ってニヤリ。うわあ、顔が熱くなる…!!!
我に返って銀ちゃんから離れようとするけれど腕の力が強くて離れられない。熱いなーなんて呟かれてもあたしはどうしようもないよ。というかむしろあたしが熱いので話して下さい。
力を入れたら「だーめっ」と子供にしつけをするように言われてしまった。うう、ちょっとだけ屈辱…。

「しばらくはこうしてようぜ。俺もうすぐで戻んなきゃいけないし」

「……うん」

ああ、熱の馬鹿。
全然考え事が出来ない。銀ちゃんの事、しっかり見たいのに。

でも、これは風邪っぴきの特権かな。ちょっとだけ銀ちゃんに甘えてみた。

「風邪、辛ェか?」
「うーん…銀ちゃんがいるから多分大丈夫です」
「んなっ、煽るような事言うな馬鹿」
「だって」

こうして家に来るなんて、想定外の事だけど…熱のおかげでパニックにならないでいる。それで銀ちゃんはこんなに優しくあたしを看病してくれているのだ。こんなに好都合な事ってないと思う。
だから、あたしは思いっきり甘えたいのです。

そう伝えたら銀ちゃんはパッとあたしから体を離した。

ぼやける視界の中、真っ赤な銀ちゃんが見えた。リンゴ? まあいいとして…そのまま銀ちゃんはあたしのおでこにちゅっと音を立てて唇を寄せた。
思わず吃驚して肩が跳ねた。何するんですか!!と声を出したら、銀ちゃんは

「風邪がうつっても困るしよ、だから今はこれで我慢すんだよ」

と、眉をひそめていった。あれ、何か…我慢、してる?

けれども上手く思考の回らないあたしには上手く理解できなくて、「そうなんだー」と呑気に返事をした。
少し肩を落とした銀ちゃんだけど、何だか安心したように微笑を浮かべた。


「いいからもう寝てろ。話し過ぎて疲れたろ?」

「ううん、一人がちょっとだけ寂しかったから楽しかったです」

「…そっか。ならいいわ。でも寝てろよ」


明日から学校でお前に会いたいし。


そんな甘い台詞を残して銀ちゃんはあたしを布団の中に入れて寝付かせれば頭をそっと撫でてくれた。
暖かい掌に眠気が誘われてやってくる。そうだね、銀ちゃんのためにも、明日までには治して学校行きたい。ちゃんと寝よう。



――――………



大丈夫、だっただろうか。

銀八は寝付いた結の隣にあるお粥の茶碗を見てふと考えた。

何がって味付けの事だ。
元々甘党の銀八にしょっぱさを求めるだなんて難しい話だが、銀八は頑張って味付けに力を入れたのだ。まあ、結も熱を出していて味覚もハッキリしていないだろうし大丈夫だっただろ。
一人考え事と茶碗を片付ければそのまま外に出た。時間は何とか間に合うだろう。とにかくこの場面を知人に知られないようにしなければ、と細心の注意を払って辺りを見る。
マンションだから下に誰かがいたとしてもギリギリ見えない。しかし隣の部屋は我が教え子桂小太郎とエリザベスの部屋がある。

っていうか何で隣同士なんだよ!どういう運命だよ!と心の中で思う。
半分悔しいのと危機感。しかしあの電波なら大丈夫だろう…と思いつつもその扉を思い切り睨んだ。



と、同時に。



『あれ、先生じゃないですか』


「あ」


白い謎のペンギンのような物体が、自分の後ろに立っていたのだ。




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