恋連鎖 | ナノ


目が覚めてすぐさま目に入ったのは時計だった。
え……7時…30分?何だか暗い気がする……。まさかと思って思い切って体を起こした。が、時計が逆さまだったらしく、今は11時。しかも暗いのはカーテンのせいらしく外はさんさんと太陽が照っていた。ああ…空が青いなぁ。

幾分か体が軽くなった気がして熱を測ったら、今度は38.5度と出た。
あれ、全然熱がある…。まあ元々熱には強い方ではあったからなんとか耐えられているのだろう。しかし39度は流石に体は音をあげたらしい。不測の事態に体はついていけないのだ。


それにしてもなんで熱なんか出したんだろうか。


汗をかいた服を脱ぎながら考えてみた。原因は…大方、先日までの球技大会しか思いつかないんですけど。
体を動かし過ぎたからだろうか。それだったら疲れたーで終わるけれども。
あ、妙に苛立ってたからかな?…それとも、何らかの方法で九ちゃんから熱がうつったとか……。

それで思い出したけれども九ちゃんはもう大丈夫かな。大分弱ってたけど。
今日学校言ったら聞く予定だったのに。もうあたしの馬鹿。自分の体は大事だけど、友達だって大事なんだから。

様々な事を考えていたらまた熱が上がった気がした。
大変だ。もしかして昨日とかは色々考えていたから、これは知恵熱というものなのだろうか…?!
馬鹿らしい。あたしがそんなの出すかっての。

服を小さな洗たく機に放りこんで新しい服を探そうとする。

ああ、でもやっぱり熱はあるんだなぁ…。服とか本当何でもいいやって思えちゃって、とりあえず大きな男性用のTシャツを見つければそれをガバっと頭から豪快に被った。

髪の毛がボサボサなのに気付いてなんとか纏め上げる。そうしたら家のチャイムが鳴った。



「……?」

困ったなぁ。これでも熱があるのに…お母さんから何か仕送りかな?ううん…この格好、友達とかだったら恥ずかしくて死にそうだけどまあいっか。熱があって諦めが早くなっているようだ。


ペタペタと音を立てて、多分真っ直ぐに玄関へと向かう。


ガチャッと重々しく扉を開けて「なんでしょーかー」と棒読みになりつつも顔を出した。
そしたら、だ。


「お前、その格好は駄目だろ!ほら早く部屋戻れ」

「ふぇ?」

その訪れた人の姿をまともに目にしないまま、あたしはくるりと半回転させられて玄関で立ち尽くされた。
誰だろうか…?と振り返ってみて、あたしはすぐさま後悔した。


「銀ちゃん……!!?」

「よ、よぉ…」


別の意味で熱が上がった。どうしよう、え、どうしよう!こんな格好だし髪の毛ボサボサだし!いやああああ見られたくないいいいいい!
とりあえず思考が上手くできないからあたしは考えるより先に行動に移す。
ドドドドと音を立ててすぐさまベッドに駆け込み布団に包まった。

「おい結!! つかお前飯は?持って来たんだけど…」

「ふぅぅぅぅはふかひいからほっかいっへええええ!!!」

「へ?何つってるか分かんねェんだけど…」

「いいはら、しっし!」

先生になんて事をしているんだか。意識がはっきりしていればどうにかなっていたんだけれども、今は恥ずかしさと熱で頭が回らない。
手だけだして追い払おうとするけれども、ぱしっとその手を掴まれて、そのまま布団から這いずり出された。うわ眩しい!

「あーあー暑いのによォ…汗だくじゃねーか」

「あ、の……恥ずかしいから、見ないでください…。せめて着替えさせて下さい」

「駄目。熱あんのに無理すんな。大体今何度くらいなんだ?」

「……38度」

「高ェよ。いいから結ちゃんは大人しく寝てなさい。今日は特別、銀さんがお粥作ってやっから」

「……」

布団に寝かされて、その手つきが親のように優しいから心がきゅっと締めつけられた。
それにしても、何で今銀ちゃんがうちにいるの?住所しってるのは多分個人情報でも見たんだろうけど…今日、学校だよね。朝電話したよね?

「……」
「何だよ」

適当にそこにかかっていたエプロンを腰に巻き付けて腕まくりをした銀ちゃんがカッコいい。じゃなくて
「学校は?」
と単純に尋ねた。

そしたら銀ちゃんは「昼だし授業ねェから抜け出してきた」と答えた。あ、そうか…そうだったんだ、って思ったら「お前のために」と後で付け足されて心臓が跳ねた。


「え…え…?」
「いいから、体起こさねーで横になれって」
「…はい…」

ああ優しいなぁ…。そしてやっぱりカッコいいなあ…。
そういえばあたしはこの人のかのじょ、という奴だった気がする。いいのかな、あたしなんかがこの人の隣にいて。この人から世話してもらっちゃって。

ぐずぐず考えていたらコトリと音がした。ああ、お粥出来あがったみたい。ほかほかと湯気が立っているのを横目に見て体を起こそうとしたら銀ちゃんが支えに来た。

「食えるか?」
「ん…」
「あーんしてやろうか」
「…ん」

「え」

銀ちゃんが固まった。

「あれ?……あーんしてくれるんじゃないの?」

尋ね返してみれば、銀ちゃんの顔は真っ赤っか。なんで?どうしたのかな…熱でもあるのかな?
でも聞く気力がなくてあたしはぼーっとしたまま銀ちゃんからのお粥を待つ。
そんなあたしを見て銀ちゃんは「ちょっと待ってろよ!」と慌ててスプーンを取りに行った。
あー…食器の場所分かったかな?まあいっか。しばらくしたら銀ちゃんは戻ってきた。

そしてお粥を掬ってふーふーと息を吹きかける。冷ましてくれているという事は分かる。

「口あけて?」
「んー…」

言われたとおりに口を小さく開く。ゆっくりと口の中に、少しずつ…暖かいものがはいりこんでゴクリ。
あ、塩がすごく効いててあたし好み。銀ちゃん甘いものが好きなのに、なんであたしがしょっぱいの好きって知ってるのかな?

「うまい?」

そう聞かれたから、あたしは素直にうんと頷く。そうするだけで銀ちゃんは嬉しそうにほほ笑んだ。素敵な笑顔だなぁ。

「銀ちゃん」
「ん」
「ありがとー…」



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