恋連鎖 | ナノ
うちの学校は運動系の部活が盛んである。だから勿論タータンというものも存在している。
球技大会であるこの2日間は、走り込みに使うタータンには全くと言っていいほど人がいない。だから此処を利用して走る事を決めた。タータンだと走りやすいんだよね。
「はっはっはっは」
規則的な息使いで疲れないように、疲れないように、と思いながら走る。でも走るという行為は不思議だ。知らないうちに何を考えているか…分からなくなって、真っ白になる。
いつの間にか夢中になって走り込んでしまうのだ。
その上、誰も走らずに一人で足を動かしていると、自然なペースになっていつもよりは疲れない。これも走り込みの利点だろう。
あぁ、でもやっぱりあたしって体力ないなぁ…もう疲れてきた。
走りすぎて体力使い果たしても次の試合に響くだけ。ここら辺で止めておこう。
「…ふぅ」
汗がダラダラと流れる。まだ夏じゃないのに、日差しは暑い。
次の休日と言えば海の日…かぁ…、遠いなぁ。
そう思ってタータンの近くのベンチに腰掛けた。
遠くの方からと体育館からだろうか、生徒たちの応援の声が響く。
あー青春だなぁ…。あたしこの学校に来てよかった。ふと、そう思う。
空は青く、雲が泳いでいた。
こんな一人の時間は久しぶりだ。いつもはまわりに妙ちゃんや神楽ちゃん、九ちゃんたちが一緒にいてくれた、とても喜ばしい事…。
でも、たまには一人もいいよね。
そう思って春の気持ちの良い空気を吸う。
はぁ。さて、次はバスケだ。次の試合は多分ちゃんと全力出せ「コイツZ組の園江結じゃね?」
――ん?
聞きなれない男子生徒の声。Z組以外のクラスとは中々交流がないから誰だろうか、把握できない…
そう思った瞬間、両腕を後ろでまとめられた。
この様子だと一人じゃない、複数いる!
口を手で覆われた。「んん―――っ」と声を出そうとしても大きな声が出ない。
「結構可愛いじゃん。確か転校してきたんだっけか?」
一人の男子生徒が顔を近づけて舐めまわすようにあたしを見る。やだ、気持ち悪い……
でも、抵抗はほぼ無意味。よく考えたらこの人たちも男性なのだ、力が敵わなくて当然である。それに、背丈からしても3年だろう。なおさら抵抗ができない。
「こいつダシに3Z脅そうぜ。毎回あのクラスのせいで優勝逃してよぉ」
「だな、一回犯しとけばいいか?」
――!!
ぶるっと体が震える。
何?犯すとか……え?
「賛成!じゃ、早速脱がしてくか。ついでに写真でも撮って剣道部辺りに送って…」
「…!っ、!!」
携帯のフラッシュが瞬く。
拘束された結の姿が見事に映った。それを結に見せつけ「終わった後にここに放置するから何も言うなよ?」と言って予約送信をすれば、男子生徒は視線をこちらに映す。
結が涙ぐみながら首を振り抵抗した。
しかし口もふさがれ声が出ず、男子生徒たちは何を言っているか聞えず、勝手に事を進めようとしている。体操服だから脱がせるのにもそう時間がかからないだろう。
―どうしよう、やだ、絶対やだ……!
でも今日は人気のないタータン。
自らここを選んだのだ。誰も来ないかもしれない……。
結は覚悟をした。このまま犯されてしまっても、銀ちゃんは一緒にいてくれるだろうか。それだけを胸に残し、目を瞑る……
「この学校に不純異性交遊を取り締まる校則は確かにねーが、場所はわきまえろよ餓鬼共」
声が聞こえた。
バッと目を開けてそちらを見る。
「ふっ、んんっ、!」
―――高杉先生!!
声に出したつもりだけれども男子生徒の手がそれを邪魔する。
「見つかったのが俺で良かったなお前ら。別の先公だったら迷わず退学処分だろうよ。ま、俺なら停学で許してやらァ」
「べっ…逃げるぞお前ら!!」
暴力も何も使わず、ただ鋭いその眼光で男子生徒数名(何人いたか分かんないから濁すけど)を蹴散らせた。
「大丈夫か結?」
「ふぇっ……」
乱された体操服を自分の白衣で隠すようにしてあたしに掛けると、あたしは安心したと同時に不安が一気に押し寄せて涙をボロボロ流した。
怖かった、怖かったよ、と高杉先生に叫ぶ。
先生は優しくあたしを抱きしめて、頭を撫でてくれた。
どうしてだろう、それが酷く安心する。この無言、すごく心地いい。
「未遂…だな。良かった」
「ありがとうございました」
「…もう試合は始ってるが、俺が後で審判に言ってやるから無断欠場にはならねェだろ」
「あ!」
「安心して保健室で寝てろ。銀八には……一応言ってやるから」
「……はい」
あぁ銀ちゃんにまた心配かけるんだろうな。
そう胸中で思っていると、あたし達の関係を知っている高杉先生はそんな心の声を察したのか「暴れたら俺が押さえてやっから」と念を押してくれる。
「高杉先生って、まるであたしのお兄ちゃんみたいですね(いるかどうか分かんないけど)」
「!」
「ありがとうございました。一人で保健室に行けるので…。あ、ついでに総悟の事も止めておいて下さい。なんか写真、剣道部に送られたみたいなんで……」
それだけお願いすれば、白衣を高杉に返して結は保健室へ走り出した。
「まさかな…」
その後高杉がぽつりと何かを呟いていたのは、知る由もない。