季節物




―――運命の出会い?
そんなの信じてやるもんか。

―――赤い糸だって、目に見えないくせに誰もが口にする。


こんなあたしは、3年前に作られた。


小学校から受験に失敗し、普通の中学校に進学しようとしたあたしは、4月から憂鬱な気分で新しい生活の一歩を踏み出した。



正直ワクワクもドキドキもない。

ただ、試験の時の問題が頭の中に残っていて…あそこをああすれば良かったとか、気づいていたのに…とグチグチグチグチと考えるだけ。



そんな中学校生活は楽しかったのか?



本当のことを言うとすごく楽しかった。


矛盾しているだろうと思うかもしれないが、あたしをあの憂鬱から開放した、たった一つの出来事があってからは中学校生活はガラリと大きく変わったのだ。


『恋』



こんなものが世の中に存在していることを知らなかったあたしは、一瞬でその虜になった。



クラスの男子生徒にあたしは恋をした。

それも一瞬に。



けれども告白する勇気とかはなくて…ただ彼を遠くから眺めるだけ。


いつしか出遅れていたらしく、その人には彼女という存在ができていた。



不思議とショックは浅かった。

あぁ、自分は遅かったんだって気づくと簡単に受け入れられた。


けれどある時だった。




「どうしたの? 好きな人はもういいの?」



同じ部活だった山崎君。


彼にだけは恋の相談などを気軽にできる相手で、すごくへこんだ時にも彼はそばにいてくれた。

そんな存在だった人。



彼のその言葉を聞くと、今までどこに隠れていたのか分からない感情がこみ上げてきて…


「えっど、どうしたの!?」


彼の胸に飛び込んで、あたしは泣き出した。



そして、きっとその時の衝動だろう。
あたしと山崎君はそれをきっかけに付き合いだして、いろいろな事をした。


キスもしたし、デートだってした。

夏にはこっそりお泊りだってしちゃったし、恋人としては充分な事をしただろう。
……交わりは、なかったけど。




一年も終わろうとしたころに、彼は突然


「俺さ、京都のほうに引っ越す事になったんだ」


と言った。




あたしは何も言えなくて、しばらく口を開けたまま。

山崎君は携帯も高校生まで買ってもらえないというらしいし、連絡をとる手段は自宅への電話だけ。

しかし、あたしたちは親に内緒の関係だった。


彼が京都に行ったころ…つまりあたしたちが2年生になったころから今までは、一回も連絡を取れずにいた。


『別れた』とも言えない。

けれども今考えてしまえば、きっと彼はあたしの事を忘れて彼女を作っているのだろうなんて思える。



「はぁ………」



「ため息をつくと幸せが逃げちゃうよ」








―――……?








聞きなれたその声に振り返る。



さっきまで考えていた事が吹っ飛んで、放心状態に陥った。




「山崎君?」





そこには新しい制服を身にまとった彼氏がいて




「携帯買ったからさ、早速メアド交換でもしない?」




背中にはミントンのラケットを背負って、右手には携帯をちらつかせている。






今なら赤い糸も運命も信じてやろう。




何故ならここに、3年ぶりに出会った彼が立っているのだから。














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