季節物
あぁ、今年も桜前線が早い。
寿命60年ほどのソメイヨシノは、満開とは言い難かったがちまちま咲き始めていた。
それを見ると、嬉しいのか寂しいのか、さまざまな感情が入り混じる気がして…
「土方さん! 第二ボタンください!!」
「ちょっとズルいよぉ、あたしだって欲しいんだから!!」
そして遠くの方では私の好きな人が女子に囲まれている。
三年間同じクラスというおいしい立場だったのに、そして三年間思い続けていたのに、あたしはあそこに入る事さえできなかったりする。
なんだか情けなくて、ハァッとため息をついた。
―――今日…告白しちゃおっかな。
桜の木下にあるベンチに座って、一人考える。
「誰にだよ」
「うわぁ!!!」
突然視界に土方君の姿が写り、後ろ に転げ落ちそうになった。
慌てて土方君は、あたしの体を支えてくれる。
「あ、ありがとう……」
「いや、大丈夫か?」
こういうどことなく大切に扱ってくれる態度が一番好きだ。
「っていうか…なんであたしが考えている事が分かったのよ」
「口に出してたから」
「えぇええ……なんか自分で引いちゃうわ」
「まぁいいんじゃねぇの?」
ククッと顔に似合わず珍しく笑う彼を見て、あたしはふと疑問に思った。
―――あれ…ボタン、一つも取られてないや。
「? どうした?」
さっきまで女子に囲まれていたのに、何で一つもとられてないんだろう。
「いやさ、ボタンが全部あったことに驚いて……」
土方君は改めて自分の姿を見ると、薄く笑って
「好きな女子以外に俺の私物をあげたくねぇだろ?」
と尋ねるように言う。
ビクッと。自分の中で振られたショックのようなものが残った。
―――好きな子…っていうか、彼女でもいるのか。
改めて考えるとこんないい男に彼女がいないはずがない。
何を自惚れていたんだろう。 そうだ、3年間も彼を見続けてきて夢中になりすぎて、すっかり忘れていたんだろうな…。 自分の恋の実らない可能性を。
「あーぁ。振られちゃったぁ…」
「は?」
「何かもういい。告白する前に振られた。じゃあねっ」
逃げたくて逃げたくて あたしはベンチから立ち上がろうとする。が、瞬間、土方君はあたしの腕を握った。
「今なんつった?」
「……振られた」
「誰に」
「土方君に。だって彼女いるんでしょ?」
ムスっと不機嫌そうに言うあたしに対して、土方君はきょとんとしたまま。 何があったの?そんな風に見返すと彼は言うのだ。
「…何か勘違いしてねェか? あれ、俺なりの告白のつもりだったんだが……」
「は?」
言葉を理解するのに数十秒。
一つの桜が花を開く前に、あたしは満面の笑みを咲かせた。
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